皆様も最近、よくこのテーマを耳にすることが多くなってきたのではないでしょうか。まず4号特例とはご存じの通り、2階建てまでの木造戸建住宅などで建築確認申請の際に構造審査を省略できるという特例の事ですが、簡単に表現すると、これが平屋住宅の床面積200㎡以下のみに縮小されるという法案であります。既に2022年6月17日に公布され、2025年度中の施行を目指すとされています。
具体的には、これまで延床面積が500㎡以下、2階建て以下などの条件をクリアすれば、建築確認の際の構造審査が省略できたのですが、法改正後は、延床面積500㎡以下の建築物は「2号」または「3号」に区分されることになり、構造審査の省略が可能な建築物は「3号」に限られ、平屋でも200㎡超は省略出来なくなるという内容です。これにより、構造計算を求められる木造非住宅は大幅に増える可能性があり、建築業界において大きな影響を与えると言えるでしょう。
参照図を参考に、改めてこの辺りの改正詳細や付随する省エネ化の内容については、沢山のYouTube動画やセミナーも数多くございますので、各々必ずチェックしておいてください。
今回の法改正の背景には、住宅の倒壊を防ぐためであり、省エネ化を促進するための目指すべき理由がしっかりと存在いたします。昨今、住宅建築においては断熱材の仕様や設備搭載による住宅の重量増加から、仕様に見合う適切な強度を保つための設計施工を求めようとすることは当然だと思いますし、また2050年カーボンニュートラルの実現への取り組みに伴う省エネ基準の適合を求めようとすることも正しい取り組みであると、私自身も認識しております。
ただ、今回のコラムでお伝えしたいことは、私が一番この取り組みに対して懸念している点にあります。
それは、全て建てる前の設計業務に紐づく政策ばかりが先行してしまっており、本来、あるべき設計と施工の両立が実現して完結する筈が、設計段階でのグレードばかりに執着してしまっている点にあります。これは2000年の品確法制定から性能評価への展開の流れと似ていて、施工面と言えば、瑕疵担保責任履行法の施行止まりで、それ以降、全く進化してきていない点は否めません。
今回の法改正によって、確かに建てる前の計画段階での取り組みが進み、様々な性能の計画値での競い合いによる業界内での切磋琢磨はおそらく拡大していくことも成長と進化でしょう。しかしながらここで皆様に考えて頂きたい事は、この法改正でこれから未来の全ての住宅が本当にちゃんと供給され、広がっていくのか?という点を、プロ視点で是非イメージしていただきたいのです。
今回の法改正は非常に重要な事だと理解し、しっかり推進すべだと考えておりますが、私は逆に、計画値と実質値のギャップの拡大を懸念しております。なぜならば、あくまで住宅を建てる前の理想の計画値はいくらでも作り出せますが、確実な実質値を施工で作り出せる会社は、どんどん少なくなっているからです。
まず現実的に、今回の法改正で、どんな影響を会社に与えていくのかを紐解いていきましょう。
例えば記憶にある方もいらっしゃると思いますが、以前の建築基準法改正時に数多くの建築確認申請の審査が停滞したことがありました。そんな経験から、着工までのリードタイムの増加や承認フローの煩雑化から混乱が増し、工務部門が現場をマネジメントするための職人のシフト業務やローテーションにも大きく関わってきてしまう事を想定しておく必要があります。あまりこれが常態化すれば、今後、職人確保への難易度が一気に上がってくる可能性も考えられます。
設計部門では、申請期間だけでなく構造計算等への外注依頼なども増え、最終の取りまとめや確認作業、また設計図書の不整合による課題を防止する為のダブルチェック作業などで業務過多となり、着工までのリードタイムの増加や承認フローの煩雑化から混乱が増していくことが考えられます。特に工務部門が求めている完全着工化へのハードルがもっと高くなることで、着工後の影響による課題がさらに潜在化していくと見込まれます。
住宅会社側への直接的な不利益も当然顕在化してきます。例えば、設計業務のリードタイムの増加によるキャッシュフローの悪化、様々な設計業務の増加による人手不足やスキル不足、人件費高、外注費高、さらには業務コスト増による製造原価や販管費の増加などが考えられ、期間利益の減少から事業利益面での影響にも連動していく可能性もあります。
このような影響に晒されてしまう事から、営業部門へはユーザーへの価格転嫁を要求されることに繋がり、顧客満足という観点からは、それなりの訴求性能に対する期待に応えていける裏付けを示して行かねばならないという環境にも追い込まれることも考えられるのです。
今回の法改正による皆様のアクションは、設計リソースの強化とツールに集中しがちですが、大前提はこのような法改正があったとしても、完全着工化が実現できる効率の高い業務フローと確実な承認権限の設定、そして適切なリードタイムの設定という環境構築が、何より最優先事項ではないでしょうか。
そんなベスト環境の構築によってかかるコストを、しっかり価値に転嫁できる販売政策と販売単価を設定し、何より実質値に誇りを持てる家づくりにシフトチェンジしていくことが、これから訴求が同質化していく競争環境から一歩抜きん出るポイントだと感じております。
これからユーザーの要求レベルは足並み揃って上昇していく反面、事業者側では施工段階での格差がどんどんと広がっていきます。この背中合わせの関係性を打破する為にも、近い将来、製造品質こそが住宅事業者の圧倒的な競争優位性になっていくことから、この法改正をきっかけに、つくる視点を基本に改革して行って頂きたいと願っています。きっとそんなつくり手こそが地域で希少価値になっていく時代にこれから変化していくでしょう。