2025年春、皆さんの会社にフレッシュな新卒社員を迎え入れた方々も多いのではないでしょうか。営業、設計、工務、そしてバックオフィスに至り、これからの住宅業界を担う期待高き人財と願い、きっと雇用されたことだと思います。そんな新年度に合わせて今月のコラムは、今の時代で働くこれから活躍される新卒社員の大切なキャリアアップ環境についてお伝えできたらと思います。
よく耳にする『キャリア』とは、一般的に経歴や職歴などを意味する言葉であり、『キャリアアップ』とは、社員のこれからの能力や地位、自身の市場的な価値が「現状よりも向上している状態になること」を意味します。しかしながら、日常ではキャリアアップという表現そのものが、抽象度の高い言葉で用いられ、人によって捉え方が様々であることも特徴の1つだと言えます。
実際のキャリアアップの具体的な要素としては、昇進や昇格によって年収が上がったり、現在以上の大きな企業に転職できたり、また特定分野の専門性がより高められたりなど、個人によっても価値観の差はあります。一方で、近年の若者にはリスクとして敬遠されがちですが、マネジメント職に就くことできるなども、大きなキャリアアップの1つといえる価値観でもあります。
ここで皆さんと共有しておきたいポイントがあるのですが、それは、『キャリアアップとスキルアップの互換性』についてです。
スキルアップの延長上に、一つのキャリアアップが存在するというプロセスには根拠があって、特定のスキルや知識を習得したり磨いたりしていくことによるスキルアップは、少なからずキャリアアップを実現する上での重要な概念の1つであることは間違いありません。
しかしながら、企業においてはスキルアップの為の様々な研修を用意し頑張って推進している割には、一般社員を含め、中々成果が出てこない実態をよく見かけます。この多くの現象には内発的動機づけの弱さにあります。つまり、その座学に向き合う本人の思考の根幹に原因があることから、企業としてはその思考の根幹に順を追って水を与えていけるようなコーチング体系を心掛けていかねばなりません。
そもそも、新卒がなぜこの会社に入社したのかという動機は各々違いはありますが、業種や給与、また福利厚生や働く環境など、少なくとも外発的動機づけからスタートしています。これは決して不健全な動機ではなく、情報過多な時代に企業を選択していく若者のリクルート環境からの決断には、それなりの覚悟をもった選択なんだと考えてあげて欲しいのです。
人の成長には、必ず『目的や目標』というものが必要となりますので、自身の目指すべき理想の状態を如何に早くイメージできる環境を意識してあげてください。そうでないと、以後のスキルを磨く姿勢や環境に自らが追い込むことが難しくなってくるのです。もっとわかりやすく表現すれば、自身の未来あるべき姿に、どれだけワクワク感が存在しているか否かで、大きな思考の分岐点になるという訳です。
このような内発的動機付けが強烈にあればあるほど、新卒社員に限らず一般社員においても、自身の現状とのギャップを埋めて行こうとするアクションが生まれ、そうすれば常に現れるギャップを自身が解消して行こうとする意志の連続が結果的にスキルアップにつながり、自然にキャリアアップしていくという、ごく当たり前な流れになるのです。
しかし、昨今の住宅会社様を見ていると、自社の仕組みやり方の歯車にどう上手く機能させていくのか焦点が集中している会社が多く、評価制度も何となくその貢献に準じた評価項目に引きずられているようにも感じます。つまり、ジョブ型雇用(仕事に人を付ける)での目的が色濃く出過ぎており、社会に出たその人がどれだけのポテンシャルがあるか否かの判断を、新卒社員の段階から求めて行くということは、ある意味ナンセンスな考え方かもしれません。
もっと柔軟に2年間くらいはメンバーシップ型雇用(人に仕事を付ける)にて特性を見極め、その人が本当に発揮できそうな仕事環境を企業が提案をしていくなどの、リソースマネジメントをしっかり活用していくことが大切だと考えます。いずれジョブ型にシフトしていくので、その前にどれだけの内発的動機付けの機会を設けられるかという助走環境の充実こそ、企業の器量と言っても過言ではないでしょう。
若者の早期離脱には、企業のジョブ型雇用体質に課題があると考えられるので、本当にこれからの若者のキャリアアップを考えるのであれば、むしろ早期退職を恐れず、思い切って色々な経験や学習を早期から経験させ、様々なジョブローテーションも活発化させてあげるべきなのです。
具体的には、例えば設計部門への新卒社員には設計業務を先に教えるのではなく、その社員がなぜ設計に興味を持ったのか?あるいは、なぜ家づくりのプロデュースをしたかったのか?という動機を、どのようにキャリアアップしていきたいかを創造させながら、点を線にしていきます。
その実現のためのプロセスとして、建築全体の基本知識の理解や、ユーザーがどうやって住宅を選ぶのかというこれからのマーケティング、また自身の描いた設計がどうやって完成していくのかという施工管理の重要性まで、まずは自身の専門枠を越えた学習環境から先に与えていくことが、より内発的動機付けの機会を促進させていくのです。
某住宅会社の事例では、設計をしたくて入社した新卒社員が学ぶ環境の中で、ある時施工管理に興味を持ち始め、今や工務マネージャーとなり社内改善を率先して牽引している若手リーダーと成長した方がいました。
この社員は先天的能力ではなく、どこかでモノづくりのプロセスに共感を持ち始め、自身がいつか現場監督として独立したいという夢が湧いてきたことから、様々な建物に対してロジカルに挑戦し続けられる強烈な内発的動機付けを得たという事例がありました。企業も離せない存在に成長するくらい明確な目的や目標が生まれてきた頼もしい事例だと思いますが、企業としては逸材化した社員に対して、逆に離脱懸念がさらに高まっていく不安要素も否めない訳です。
若者の未来は無限大だからこそ、コストをかけて雇用した分を計算することも大切ですが、まず企業側も納得がいくやり切り感を高める為にも、労使共に後悔しないキャリア選択が出来る環境を、離脱を恐れず与え続けていく環境が、良き社内文化の醸成を生み出していく重要な考え方だと思います。
早期離脱を避ける為の負荷の軽減や福利厚生の充実を検討すること以上に、まずは新卒社員のコンピテンシーを如何に高めていくかに振り切っていくことが、これからの新卒社員を健全なキャリアアップ環境に導けるフレームになっていくのではないでしょうか。