昨今、現場監督の採用や育成が非常に困難になってきました。この要因の根幹には、現場監督という仕事に従事する本質的な動機付けや魅力を感じられないまま離脱してしまうという、長年の業界体質があり、新たにそれを志す若者も必然的に減少していくという悪循環を生んでいるのです。
特に現場監督という仕事のポジションが、売上確保のための受注活動の社内下請け的な役割になりつつあり、本来工務店の花形的事業ドメインであるはずの『施工を担うプロ集団』としての役割認識や、現場マネジメントへの誇りというものが非常に希薄化してきていることも否めません。企業として、外部に現場監督の数や質を求める前に「なぜ内部で醸成してこなかったのか」と謙虚に振り返ることなくしては、この課題の解決は難しいでしょう。
これは、各々の住宅会社の経営層の価値観によってかなり左右される部分でもあり、わかりやすく表現すると、『売るためにつくる』という経営思考なのか、『つくるために売る』という経営思考なのかによって、工務部門の存在意義や働く社内環境は大きく変わってきます。前者のような経営思考であれば、自社の製造体系に沿ったパーツ的役割を担うこととなり労働生産性の改善には寄与しますが、どうしても作業化しやすい仕事環境となり、一般的に業界から求められる現場監督としての技能の習得は難しく、セカンドキャリア以降への影響も考えられます。
また後者の経営思考であれば、これからの現場監督の採用や育成に対しての機会は多いといえますが、むしろハードルが高すぎることで個人への依存と負担、またスキルを磨くための学習環境というもののハードルがかなりあがることでの弊害リスクは大きいでしょう。このあたりの具体的な手法や手順については、下記にご案内する株式会社SUMUS様との合同セミナーで詳しくお話しいたしますので、ぜひご期待くださいませ。
以下の4つの事例に取り組まれている経営者様や工務責任者には、特に要注意いただきたいポイントが隠されておりますので、このセミナーで新たな気づきを得ていただけたら幸いです。
1.生産性向上に対する認識の誤り
生産性向上を労働生産性に結び付け、少ない現場監督に対して業務効率化(訪問回数の削減等)を迫り、ツールを導入しながら販管費を削減しようとするケースです。
住宅製造における生産性とは、『ムリ・ムダ・ムラ』がどれだけ軽減できているかが本質的改善となります。
経営的な方針が誤っているのではなく、販管費削減額と不良コスト(失敗コスト)が見合っているかの検証を経ていないことと、この環境下では、現場監督のやり甲斐の醸成やスキル向上が達成しにくい副作用が潜んでいます。
2.現場監督のKPIが完工棟数で評価される
これは特に多棟数ビルダーに多く見られる傾向ですが、当然ながら多くの引き渡しに貢献したという事実の評価としては間違ってはいませんが、そもそも『引き渡す』という行為の定義が決まっていないケースが問題になります。
作業の段取りをし、職人によって完工され、物件の引き渡しをするという作業行為は、いわば現場監督という技術者としての本質的なKPIではありません。技術者のKPIとは、『QCDS』を重視して行われます。完工量を重視する評価では、本来の施工管理スキルが磨かれず、段取り的業務の長期化によって、未来の現場監督の存在価値に影響を及ぼします。
3.現場監督の個人商店化
施工管理の体系化を、ツールの体系化に置き換えてしまっているケースです。施工管理の体系化とは、2で述べたQCDSに基づく本質的体系化を指します。ツールは、施工管理の8つの役割の内、情報管理という全体の一部を担うことにすぎません。
つまり現場監督が技術者としての仕事を、ツールでの共有やエビデンスという作業的な付帯業務に偏り、『判断する』という本来の主体業務への技能を損い、現場監督としてのキャリアアップを阻んでしまうこととなります。
4.性能を訴求するも、品質にコストをかけない
設計上での性能競争が高まる中、製造過程にコストをかけないケースです。これは本来原価に当たる部分なのですが、既に住宅会社の競争優位性が上流過程(営業、設計)にあるという考え方です。
製造力と見合わない営業的要素を掲げ、1で述べた不良コスト(失敗コスト)が、どれだけの適合コスト(マニュアル、検査、教育、保証等)をかける事がトータルコストを下げる事に繋がるのかの検証を経ていない典型的なケースです。これを明確にすることが、実は現場監督の本質的な目標を作り出す重要なポイントです。つまり下流の製造力こそが企業の競争優位性に繋がるんだという、現場監督のモチベーションをアップさせるポジショニングが非常に大切です。
以上、代表的な事例をピックアップいたしましたが、他にもこれからの現場監督の採用や育成を阻むリスクにつながる事例も少なくありません。
これからは、採用と育成はセットで考えなけれなりません。何故ならば、採用単体、育成単体では成果が出ることがないからです。仮に採用単体で考えたのであれば、これは単純に外発的動機付け(給与、福利厚生、評価等)だけが採用ポイントとなり、本来会社が求める内発的動機付けの高い現場監督の人財化に至ることはないでしょう。逆に、育成単体で考えたのであれば、個人スキルばかりに偏ってしまい、むしろ個人商店化の加速に拍車をかけることにもなりかねません。
これからの現場監督の採用と育成は必ずセットであり、『経営思考→存在意義→組織戦略→施工管理体系→評価→育成計画』という一連の流れを各々でしっかりと整理してから導き出し、そのフレームワークから現場監督の新しい役割定義とブランディングを促進し、若者がキャリアアップできる魅力的かつワクワクする新たな現場監督像を創り上げていくことが大切ではないでしょうか。