様変わりしていく住宅市場において、まだまだ全国には地域に根ざすたくさんの素晴らしいつくり手たちが存在します。これだけ市場変化をしてきたとはいえ、この業界では大手ハウスメーカーのインストアシェアはまだまだ低く、他業界とは全く異なる市場構造をしています。その最たる理由は『地域産業』という決定的な文化があるからだといえます。各々の会社では、初代創業者、または先代経営者から引き継がれる経営理念を基盤に地域産業として活性化させ、そして雇用を生み出し、地域社会から必要とされる組織活動の中で創意工夫しながら日々活動をされていることでしょう。
『理念経営』という言葉はよく耳にしますが、改めて紐解くと“企業の存在意義や価値観を明確にしながら、事業運営や意思決定を行う経営手法のこと”を指します。なぜならば、経営理念を従業員と共有し、組織全体の行動指針とすることで、一体感を醸成し、そして持続的な成長を目指そうとする取り組みだからなのです。我々NEXT STAGEも、これまで多くの住宅事業者の経営を長年見てきました。そんな中で、今月より、他社とは抜きん出た独自の理念経営で、地域に根ざしている経営者たちをピックアップし『ビルダーズ・リーダーシップ』と題して、皆さまに興味深いセッションインタビューをご紹介していこうという企画を今回スタートいたしました。
トップバッターは、福岡県福岡市博多区に本社を構えておられる“株式会社のあ建築設計の坂上功至社長”をお迎えし、坂上社長の経営感から事業戦略、そして組織戦略まで、様々な価値観を引き出しながら先日対談させていただきました。テーマは「究極のオンリーワン、紹介率70%超!人が自然に集まる仕組み」と題して対談いたしましたが、受注契約10件中7件が紹介で成り立っているという、これまで例を見ない高い実績数値だけでなく、協力業者や社員なども、このような循環サイクルで集まってきているという、ある意味奇跡のような組織成果をあげておられるのです。
業界関係者であれば、既にご存知の方も沢山おられるとは思いますが、なぜこのような成果が、市場の変化に負けずに積み上げられているかという根幹には、しっかりとした坂上社長の軸が存在していました。坂上社長の人望は厚く、人好きで行動力があり、何よりとことん相手の立場に立ち切りながら相手のベネフィットをいかに最大化させるかを徹底する思考が根底にありました。
幼少期は、獣医を目指すも2度の受験失敗から夢を断念され、あるきっかけで住宅営業に飛び込まれました。やがて周りの反対を押し切り、32歳で知識不足と資金不足のドン底状況から創業され、今や顧客やスタッフに恵まれた経営環境にまで会社を成長させています。きっとそこには、何かに徹底して振り切る坂上社長の覚悟と勇気が、他社にはない独自の企業文化を生み出している根幹に繋がっていると改めて確信したのです。ご視聴されていない方々にはせっかくですので、改めてご視聴いただける環境を今後準備していきたいと考えております。
次回、第2回目のビルダーズ・リーダーシップは、愛知県名古屋市北区の阿部建設株式会社、阿部一雄社長をお迎えいたします。阿部社長といえば『車いす一級建築士』として有名な方で、バリアフリーに関する書籍など、メディアでも多数取り上げられています。対談テーマは「地域に必要とされて120年!車いすの一級建築士が語る 設計×施工を一貫させた独自の工務店経営」と題しまして、5代目社長の阿部社長に色々とお話しを伺っていきます。
阿部社長は、1964年名古屋市で生まれ、中部大学工学部建築学科卒業後、愛知トヨタ自動車株式会社を経て1989年に家業の阿部建設株式会社に入社されました。2002年オートバイレース中の事故により車いす生活となり、2005年には創業100周年の節目に5代目代表取締役社長就任されます。社長業のかたわら、車いすの一級建築士として「バリアフリーコーディネーター」としても活動し、住宅や施設設計、講演など様々な活動を通じ、ご尽力されている方です。
“地域で注文木造といえば阿部建設”と言われたいと、そう語る阿部社長が実践しているのは、自身だからわかる体感や経験を福祉の視点に取り入れ、そして本質的なバリアフリーという認識や取り組みを刷新すべく、社会貢献に展開できる事業を軸に推進されております。そして、それを実現するために、敢えて現場監督を置かない設計主導の設計施工の一貫体制にこだわっておられ、本当に注力すべき領域に人材を集中投下する仕組みを整えながら、顧客・社員・職人の三方にとって心地よく、成果につながる体制づくりを常に心掛けておられるのです。これが、120年企業の五代目としての経営観であり、今後、いや現在に事業承継されている工務店経営者様には、必見ですので是非ご期待くださいませ。
住宅業界における多くの経営者たちは、様々な勉強会やネットワークにおいて、横の繋がりや人脈を作りながら経営的影響を受ける流れが一応にあります。特にPL・BS・キャッシュフローといった実績戦術面に影響を受けやすい傾向がありますが、他社に真似てこれまで拡大された会社を私はあまり見たことがありません。身の丈以上に拡大することが何より素晴らしいことでもなく、経営者自身がそもそも何を成したいかが重要だと思います。 当然、周囲から学ぶ環境は必要かつ重要なことなのですが、周りに影響されて、真似て実践して良い部分と、成したい姿を実現したいために影響されてはならない信念とは全く違うわけです。
成長されている会社の特徴には、必ず自社の強みや独自性と、提供している商品やサービスが常にマッチしているか否かで決まってきています。つまり、ミスマッチならばやらない勇気や撤退する勇気も大切であるということです。例えば、飲食業界で接客状況をユーザーが一番に求めてないジャンルは“ラーメン屋”です。当然良いに越したことはないのですが、それ以上に唯一求められるものは『味』なのです。
逆に少々接客が無愛想でも、味が美味しくて列を成すラーメン屋は全国にたくさんあります。しかしながら『顧客満足=サービス』という業界洗脳から飲食事業に異業種展開される住宅事業者さんも見かけますが、あまり成功されたケースは多くないでしょう。つまり、本気で『味』という経営の強みに一局集中させないといけないラーメン業界に対して、店舗デザインや食器、また接客に資源を間違った方向で集中させてしまい、失敗した事例もこれに当てはまるでしょう。
企業は当然、売上拡大や利益拡大のために事業を成長させるのですが、方策ありきではない根底にある理念経営のメリットは、何より経営者のすべての事業における判断基準が明確になるということが最大のメリットとなります。そして長期的理念が板に着けば着くほど、従業員は自身の仕事の意義を理解し、組織全体で同じ目標に向かって進むことができるようになってきます。これが昨今求められている“現場力”や“生産性向上”につながる強い企業の源泉に変革するのです。また、外部に対しても企業の価値観や姿勢を示すことができるようになり、ブランドイメージの向上による従業員の仕事への誇りや、未来を支える優秀な人材の獲得にも紐づいていくのです。
今後も「ビルダーズ・リーダーシップ」企画をご期待いただき、理念経営に対する志に着目していただきながらご覧いただければ、経営熱の根っこから多くの大切なことを学んでいただけるに違いないと確信しております。