住宅建築業界そのものが、中々変わりにくい体質である業界だとお感じになられる方も多いのではないでしょうか?
皆様が感じる印象の中には、おそらく考え方が旧態依然としていたり、仕事に対する変化や革新といったワクワクする何かが欠けてきている事から、結果的に仕事に対する意欲、そして生産性や価値そのものが見出しにくくなってきているのかも知れません。
それは、世の中のあらゆる産業から客観的にこの住宅建築事業をじっくり見ると、事業構造上、決定的に変化が生まれにくい業態である事が解ってきます。その変化を起こしにくい体質というものを具体的に説明すると、住宅事業者のほとんどが総合請負業として事業をしているという点です。
特に「顧客獲得の為のマーケティングから集客活動」、また「販売から設計業務」そして「施工から維持管理」という一連の難易度の高い多くのサービスコンテンツを、地域の中小企業クラスの事業者であっても全てを担い続けているという、特殊な業態が未だ存在しているという事が、変化を起こせない大きな要因でもあります。
決して総合請負業そのものを否定しているのではなく、あらゆるサービスコンテンツ全てにおいて、プロ事業として探究し極めていくには、やはり経営力が分散してしまうという事の弊害を示しております。
つまり「二兎追うものは一兎をも得ず」という言葉通り、本当の自社の強みを選択と集中できないまま、全てのサービスコンテンツに対して中途半端な推進となり、そして事業そのものが段々と脆弱になり、結果、事業全体として共倒れになって行く事を避けていきたいが為なのです。
例えば、飲食業界で表現するとわかりやすいかもしれません。
今の業界の総合請負業というものを飲食業界で例えると、地域の飲食店のメニューにそれなりの和食、洋食、中華、寿司、麺などが品揃えをしているようなものであるのと同じイメージです。いわゆる総合飲食店という事でしょう。かつて大手レストランチェーンが担っていましたが、今みなさんは、そんなお店に積極的に足を運びますでしょうか?
逆に現在の顧客視点で考えると、一体何がこのお店の自慢のメニューであり、何が美味しいのかが全くわからず、何となく顧客側からも選ばれるイメージが全く湧きません。だから現在の飲食店は、ジャンルを明確にし、さらに自慢のメニューを取り上げたり限定させたりする事で、独自のイメージブランドをこぞって訴求しながら、お客様のファンづくりを行っているのです。このような業態変化を「アンバンドリング(切り離す、ばらす)」と言います。
アンバンドリングが顕著に現れている業界でいうと、最近では金融業界もそうでしょう。金融というものが以前はメガバンクだけではなく、地銀や信金を含めて「総合金融サービス」というものが一連の定番サービスとして存在しましたが、預金や引出しという基本サービスすら、今やコンビニエンスストアのATMサービスに置き換わりつつあるように、細部に渡る小さなサービスに切り離され、そこに経営資源を投入し事業を集中させる事で、新たな革新に繋がっているのです。
さらに業態革新は続いていきます。その現象は、アンバンドリングされたバラけたものが新たなグルーピングに徐々に束ねられていきます。これを「リバウンドリング(跳ね返る)」と言います。
金融業界のリバウンドリングの例であげると、皆様も日々の生活で利用されているQRコード決済もそうでしょう。総合金融サービスからアンバンドリングされた後、クレジットによる決済など、様々なカード会社などに切り離されてきましたが、今や携帯が習慣化する生活の動線から、NTT ドコモ、au、ソフトバンク3社のキャリア会社によるQR決済が主流になりつつあります。
このような一連の金融業界のアンバンドリングからリバウンドリングを住宅事業者に置き換えて考えると、まずアンバンドリングについては、住宅という商品をブランディングし販売することが強みの会社。また他社には真似できない空間やデザインを作り上げられることが強みの会社。あるいは、どんなものでも品質をしっかり担保しながら生産性高く製造できる、施工管理が強みの会社など、これからは明確に訴求できるだけの経営力を集中させながら、積極的にバラけさせて行く必要があるのです。
このような業態変化なしでは、新しい家づくりの選ばれ方や、画期的なプランニング、可視化されて安心できる製造プロセスなどをパーフェクトに実現できる企業など現れてこないと思うのです。昨今のDX化への環境変化は認めるものの、それを利用する側が総合請負を浅く広くサービス展開している限り、中々本質的な生産性向上や利益向上を実現することは難しく、業界は進化しないでしょう。
今、住宅建築業界は大きな局面を迎えています。
我々ネクストステージは、これまでの事業Coreとして「つくる」に対する製造ソリューションを手掛けてきましたが、住宅事業者がいつまでも「つくる」ことよりも、「売る」ことに経営力が偏ってしまうと、ただのコストという発想しか生まれません。つまり質の高い建物をつくる事は難しく、売れば売るほど内外部の不良コストが増大し、増収減益構造をさらに作り出してしまいます。
しかしながら、地域の工務店が「つくる」のプロに経営資源を集中して行くというリバウンドリングが新たな束になったならば、それは業界で今まで成し得なかった新しい施工ブランドチェーンが確立する新しい力になる訳で、つくるリソースが困難な時代こそ、これからはつくれる仕組みを保持する企業こそが希少価値として新たに価値を生み出し、そして元気に生き残って行くでしょう。
きっと住宅建築業界の業態革新とは、「売れる企業」、「つくれる企業」、そして「建物を維持管理できる企業」など様々な専門家がシナジーを生み、シェアリングエコノミーな環境に革新して行く事であり、この業界の新たな未来成長の根幹となるに違いありません。