生産性向上の第一歩目は工数分析から

2015年基準での建設資材高騰は、2023年初旬あたりを天井に全国平均で約132%ほど上昇し、以後、この9月度までは価格 …


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2015年基準での建設資材高騰は、2023年初旬あたりを天井に全国平均で約132%ほど上昇し、以後、この9月度までは価格も落ち着き始め、若干の下落に転じた状況となりました。ここ数年の原価アップから住宅事業者の収益性もかなり厳しくなり、増収した企業であっても減益での実績を辿る企業は少なくありません。

このような環境下において、従来のような原価対策を抜本的に行うといった手段が不可能になった事で、住宅事業そのものの販管費に対する改善に目を向けざるを得ない状況となってきたことから、生産性に対する意識が高まってきたと考えられます。この傾向そのものは、私自身、非常に会社運営として健全な傾向だと考えており、これまで建設業界が過去20年で、たった1%ほどしか労働生産性が上がっていない業界であった事の方が、むしろ異常であったのだと考えます。

特に住宅業界では販管費全体の中でも人件費の割合が高く、労働分配率も60%を超える企業も少なくはありません。となれば、やはりコスト比重の高い「ヒト」が仕事で生み出す価値を上げない限り、事業全体の収益も上がらない訳で、人の仕事の業務そのものの在り方から修正していかない限り、生産性向上の達成は難しいという事を、まずは認識しておく必要があります。

住宅事業に対する生産性の妥当性はどこで見極めて行くのかというと、QCDの視点で見極めていくこととなります。Quality(品質)にムラがなく、品質をトレードオフさせないムダのない最小限のCost(コスト)で、Delivery(納期)という適切なリードタイムでもって住宅事業を回して行く事が生産性となりますので、具体的に言うと人に依存するプロジェクトマネジメントから、人に依存しないプログラムマネジメントの仕組みで回せる事業環境下に変革させていく思考がこれから求められます。

それでは、これから本質的な生産性向上を目指して行くためのポイントをお話しします。

まず大前提として、ムリ、ムダ、ムラが現在どのくらい発生しているかを、収益面から分析していく事が重要になります。つまり実行予算に対する完工時の粗利が、どれくらい狂っているかの全体枠から把握していきます。その誤差が、ムリ、ムダ、ムラを引き起こす内部不良コストと言われる失敗コストであり、この内部不良コストの要因の大部分は着工前精度と言われ、わかりやすく言うと完全着工化がなされていない準備不足から来るシワ寄せコストだと言えるでしょう。

その着工前精度のどこにボトルネックが存在するかを具体的に見つけ出していく為に一番効果的なアクションが、今回のテーマである「工数分析」なのです。

すでに工数分析をされている企業様もいらっしゃるとは思いますが、おそらく社員からは日報的な、面倒くさいやらされ作業となり、中々本質課題が掴めなかったという苦い経験をされた方も多いのではないでしょうか。

このやらされ問題は、ほとんど正しい目的や主旨が社内へ落とし込まれず、本質が伝わらないまま作業化させてしまっている事がほとんどです。また仮に工数分析が取れたとしても、具体的に取れたデータを次にどうしたら良いのかというネクストアクションが存在しない事や、そもそも何の仕事が有益で、何の仕事が無駄なのかという概念そのものが設定されていない事が挙げられます。

実は仕事の分類そのものには、「主体業務」と「付帯業務」に仕分けが出来ることをご存知でしたでしょうか。

この主体と付帯の分類の違いは、付加価値を示しており、付加価値とは収益に紐付くか否かの違いとなります。つまり極端に言えば、主体業務の工数を増やせば収益貢献に繋がりますし、付帯業務に工数を取られてしまうと、いつまでも価値の出せない対処業務に明け暮れてしまい、モチベーションの上がらない作業的仕事に追われてしまいます。

人件費は、やはり販管費全体を一番占める費用だけに、人が行う業務に対してどれだけ収益に結びつく仕事に工数を配分できているかで、結果的に生産性に大きな影響を与えます。この状態がある一定に保たれた場合、付加価値生産性が高い状況に変わった事を示すのです。

工数分析では、各部門の主体業務と付帯業務のタスクをまず設定し、1ヶ月から四半期程度の期間で集計をされると、ある程度の傾向が見えてきます。集計時には主体業務と付帯業務の比率を割り出し、まずは付帯業務の改善から着手します。着手の仕方としては、捨てる仕事を選別すること、捨てずに効果的な媒体利用で解決すること、やり方を変えて再利用することの3つの方策があります。適切に判断し改善していきましょう。

そして付帯業務が少しずつ削減され時間が浮いてきたら、その浮いた工数をどんな主体業務に転嫁して行くのかを予め計画を立てしっかりと工数転換して行く事で、生産性は徐々に回復して行くようになっていきます。

例えばわかりやすい事例を一つ挙げるとします。

現場監督の主体業務は技術者として成すべき価値として、施工管理業務となります。施工管理業務は工程管理、原価管理、受発注管理、情報管理、納材管理、品質管理、安全管理、環境保全の8つが主体業務となります。この概念設定をしっかり決めておく事が重要であり、ここをどれだけ精度高く確実にやり切れるかが、技術者としての技能であり成果となります。

一度、皆さまの会社の現場監督さんの日々の仕事を工数管理してみてください。おそらく上位は「現場移動」もしくは「現場打ち合わせ」「社内業務」などが必ず挙がってきます。これまでのわが社の統計では、この3つで全体就業時間の約半分の工数を使っているデータが取れていますが、この3つの仕事は果たして主体業務なのでしょうか?これは正真正銘、付帯業務なのです。

仮に現場打ち合わせを取り上げたとすると、みなさんは監督のメインの仕事だと勘違いしているのです。例えば「図面詳細がわからず納まらない」「お施主様との未確定事項を確定させる」などの、そもそも着工前に明確にしておいたり、しっかりお施主様と打ち合わせ完了して着工を迎えておけば、このような現場打ち合わせ工数は、そもそも存在しない訳で、もっと精度高く準備できておれば、必要のない仕事に変わってしまうのです。

実はこのような付帯業務が「何故発生するのか?」という要因を特定するために、工数分析をする訳なのです。非常に効果的かつ有益な取り組みです。結果、その要因を特定すると、やはり行き着く先は着工前までの社内業務フローや情報伝達不足。また実施設計の不整合など、着工前のあらゆる承認機能が働いていないと言うような上流工程に、本質の課題が浮き彫りになるのです。

ほとんどの住宅事業者は、このような工数分析をしないまま、なんとなくDXツールを導入したり、人を入れ替えたり、他社事例を真似たりと、費用をかけながらいくら策を講じたところで一向に課題は解決しないのではないでしょうか。 効果が出なければ、また売上を確保するために再発進してしまうという更なる負のスパイラルに突入し、今以上に抜け出せなくなってしまうのです。

今回のテーマである工数分析のトライアルにぜひ挑戦してみてください。進め方がわからない場合は、当社にご相談頂ければ、正しいアプローチをお伝えしながらご支援させて頂きますので、お気軽にご相談くださいませ。