ビッグモーター社は2021年に初めて内部告発があってから、長く潜在的に問題を有しながらも浮き彫りになりませんでしたが、やっと2023年の5月にFRIDAYで取り上げられ、業界の大きな問題となりました。
「ゴルフボールを靴下に入れて車を叩き傷を付けていた」や、「街路樹を除草剤で枯らしていた」など、何となく点の問題として捉えられがちですが、本当の問題は業界のワンストップサービスの盲点とも言える、業界体質の非常識が常識化していた事が、最大の問題と言えるのです。
住宅業界においても、元請事業者は新築やリノベーション、そしてリフォームというカテゴリーに対して、「販売事業」「設計事業」「製造事業」「維持管理事業」とワンストップでユーザーへサービスを提供するという仕組みを考えると、非常に仕組みが似通っていると考えます。
今回のビッグモーター問題のワンストップサービスでの問題行為は一体なんだったのかをここで改めて整理すると、
まず1つ目は「修理費水増し問題」が挙げられます。これは故意に現状の問題箇所から何らかの手段で破損箇所を広げ、従来以上の修理費を水増しして請求し、利益を得るという常識では考えられないあるまじき行為でした。
そして2つ目は「街路樹の除去」であり、在庫を店頭に並べてユーザーに告知活動を促進する為に、行政の管理下にある街路樹を目線の障害物として故意に排除するという、異常な販売優先文化の風土が蔓延していたモラル的問題です。
3つ目は、「事故車販売」についてです。事前に知り得ていた不具合箇所を隠蔽し、ユーザーが気にする容姿を中心に補修し、特に走行には問題ないレベルくらいの状態までで留めておき、故意に販売し収益を得ていたという問題です。
最後に4つ目は、「自動車保険の架空契約」です。これは、すでに廃車が決まっている車両に対し保険を付与し、損保会社の販売手数料を得る為の架空の契約行為を故意に行なっていたという詐欺的問題です。その他にも、車検サービスにおける不透明なチェック体制から作業の手抜きや不履行なども徐々に浮き彫りになってきています。
このような一連のビッグモーター問題を教訓に、我々の業界が学び得なければならないことは、まずワンストップサービス提案をしているという共通点に対して、そもそもの業界環境や動機の違いを明確に比較しながら、今後、住宅業界はどのようなスタンスで本来サービスを提供しなければならないのかというあるべき姿に立ち戻る事だと思います。
業界環境を比較してみると、異常値は除いたとして、一定の販売ノルマや販売優先文化は同じく強烈にあるという事と、自動車営業は車のメカニズムをあまり知り得ない中で車を販売する事に対し、住宅営業も建築を熟知せずに販売する環境は大きく変わりません。
もう一点忘れてはならないのが、商品やサービスにおける品質管理という点では、故意であった今回の問題とは行かずしても、住宅業界はむしろ作業化し、仕組みにならずに人的依存の中で商品が提供されたりチェックされたりしているという非常識な体質が、今や常識化してきている事も否めません。
逆に環境が異なる点を唯一挙げるとするならば、単価の大小の違いがあり、故意に行える範囲と何かあれば補填しなければならない金額が高額であるという違いから、「品質を故意にコントロールする自動車業界」と、「品質を適当に作業化させる住宅業界」だと言えるでしょう。
いずれにせよ、一般のユーザーは自動車の細かなメカニズムまでは知り得ていないですし、住宅製造における建築や施工管理の仕組みまでも当然理解されておりません。だからこそユーザーは、企業に対価としてお金を払ってでもキッチリやってもらっているという「性善説」が存在し、我々業界のプロ視点では、仕組みのない人的依存型で、キッチリ家が建たないという「性悪説」が業界文化に根付いています。
この性善説と性悪説のギャップを考えた場合、住宅業界のワンストップサービスも何かのスキャンダルをきっかけに一気に業界不審は広がり、厳しい労働環境からも内部告発という形で大手を中心に出てくる可能性は非常に高いと言えます。
このように、今回のビッグモーター問題の背景から我々住宅業界のあるべき姿は実にシンプルであり、皆様が日々の暮らしの中で、自動車の購入や中古売買、または修理や車検などに遭遇した場合、皆様が取る行動そのものがユーザーニーズになるという訳です。
少し高くても車検のプロセスを映像で可視化できるサービスや、中古車のテクニカルな状態を定量的に評価されており、第三者的な審査や裏付けが用意されているなど、想像しただけでも色々と創意工夫のサービスが生まれてくるでしょう。
住宅業界で一つ言える事は、お金で品質が買えないという事なのです。販売実績は汗をかけば一定の成果はでますが、品質だけは経営体質からマネジメント能力、社内統制でしか成し得ない事ですので、どんな環境においても謙虚にモノづくりに向き合い、仕組みを持つ未来のつくり手には、今後圧倒的な希少能力だと言えるでしょう。