今や、新築需要が低迷している業界現象を皆様はどのように捉えられておられるでしょうか?今月のコラムでは、新築需要の低下の要因を改めて理解し、これからの新しい事業転換に活かせる気付きを学んで頂けたらと思っています。
私なりに敢えて2つの根本的な転換要素をまとめてみました。
その要素の1つは皆様も実感されている通り、建築資材の原価高騰による販売価格アップが、30代の主力購買層にとって住宅ローンを組める総額が限界値を越え、手が届かなくなってきた点です。仮に年収500万前後を想定しても、月々12万程度の返済で35年ローンとなれば、総額3500万辺りが一つの限界値となる訳です。本来の借り入れ適正値で言えば、2500万から2700万程度で考えて行きたい相場でもあります。
調べてみれば、2015年基準に対して2023年4月現在で、既に全国平均約132%アップとなり、単純に3割以上住宅価格が上がるとなれば、ユーザーも住宅購入の在り方からそもそも検討せざるを得ないというのが、順当な人間の心理だと言えるでしょう。
2点目は、逆に皆様が意外にも気付かれていない部分だと思いますが、日本の生涯未婚率の増加という点です。2023年4月現在でいくと3,279万人にものぼり、特に男性は28.25%と非常に高く、女性でも17.85%と、人の時間の過ごし方や生きる価値観がここ5年くらいで加速的に変化してきたのです。このような生活トレンドを捉えると、独身となれば当然新築住宅の自己所有という選択動機も薄くなっていくに違いありません。
何となく業界で働く皆様の捉え方としては、どうしても『市場景気』というキーワードで物事を解釈されがちですが、現在の変化は、暮らして行くための『様式』が変化していると言った方が正しい捉え方だと思います。確かに緩やかな人口減は否めませんが、人は生きる為には必ず雨風を凌いで暮らさなくてはいけません。決して住まう環境が失なわれていく訳ではなく、住まい方や暮らし方の選択肢が広がったという事に尽きるのではないでしょうか。
ここで、まず前者の販売価格のハードルについては、住宅ローンの限界値がキーワードとなっている訳で、そもそも支払えるか否かの前に、組めないという理由では全く購入検討は進みません。そこでついつい更なるローコスト商品づくりという選択に進みがちですが、つくり手にとっても希少な職人環境にとっても、この選択は既に不健全な方向なのかも知れません。
やはり地域産業こそ、地域の人々が暮らす環境に合わせた提案をしていく必要があるのですから、ここは新築より地域のストック物件を上手く再生し、新しい価値を注入していく切り替えがこれからのつくり手には大切な事業カテゴリーとなるのではないでしょうか。
また後者の生涯未婚率の上昇についても皆様の捉え方次第で、敢えて独身者だけにターゲットを絞ってみて、個人の暮らしの価値を見出せる環境を検討してみてはいかがでしょう。つまり資産価値形成という視点ではなく、賃借しながら新しい価値を選択できたり、独身者×コミュニティという環境を街に形成してみたりと、色々な新しい暮らしのプラットフォームを発想できさえすれば、これも新たな事業カテゴリーになるに違いありません。
数年前にもコラムで連載した事もありますが、住宅事業は必ずや未来「アンバンドル化する」と言ってきました。アンバンドルとは、わかりやすく言うと『事業が分解される』という意味で、現在の住宅元請業は、「販売」「設計」「施工」「維持管理」と総合請負業として成り立っていますが、いずれかに特化して価値を出すという方向に行くべきだと言うことです。どれもが60点の中途半端状態で人的依存環境から脱却できずに収益性は向上せず、不良コストも減っていかないとなると、事業を絞って何かを100点にできる範囲選択と価値集中に転換していくしかないのです。
他業界をみてもわかるように、例えばある中華屋さんに、気の利いた寿司やイタリアンなどがラインナップされていないのと同じで、中華屋さんだったら、ラーメンに特化する、むしろ豚骨ラーメンをブランド化するといったニッチな方向にどんどん進んで価値を出しに行くのに対し、住宅業界だけは永く総合請負業で居続ける事が良しとされる業界文化になりつつあります。
これからのトランスフォーメーションはDX化だけでなく、皆様の事業のアンバンドル化によって思いがけない顧客の流れを生み出すのかもしれません。市場の変化を景気の変化と見ずに様式の変化と捉え、茹でガエルにならない視点と思考を磨いていただき、どこかで勇気を持って事業転換されて行く事が結果、新しい業界再編の基盤となるに違いないでしょう。