社内改善が進まない理由と、それを乗り越え進める方法

再来するインバウンドの影響を受け、旅行や飲食等を中心とした消費活性化もメディアからよく耳にするようになってきました。我々 …


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再来するインバウンドの影響を受け、旅行や飲食等を中心とした消費活性化もメディアからよく耳にするようになってきました。我々住宅建築市場もこのような景気全体の上昇気流からこれからも恩恵を受けるのかと言えば、それは過去とは違い、既に違う状態にあると言えるでしょう。

それは住宅取得をする年代達の資産価値に対する考え方や、日本の成人における生涯未婚率が2割を遥かに超えるという環境下から、人口及び世帯数減少にとどまらない影響が加わっているからです。

さらに業界をミクロ視点でみると資材も高騰しながら高止まりし、現場技術者や技能者のリソース不足が事業生産性を押し下げ、住宅建築事業そのものの売上総利益(粗利)が安定的に確保できない事業構造になってきていることが大きな業界の課題だと私は考えます。まさしく、事業そのものに付加価値が出なくなっていることを懸念しているのです。

そんな懸念を脱却する為にも、各社様々な社内改善に日々取り組んでおられるのですが、何より「社内改善が進まない」という声ばかりが聞こえてくるのが現状です。

そんな社内改善が進まないと嘆かれる多くのリクエストから、今月はその改善が進まない理由と、それを打破しながら乗り越えていく手法をお話ししていきましょう。

改善したいメニューはおそらく多々あるでしょう。上流からいくと、そもそも「販売する住宅の企画品質の課題」、「営業の売り方の課題」、「商談工数の課題」、そして「設計体制の課題」、「完全着工化に向けたあらゆる課題」、「着工後の品質管理の課題」、「維持管理の課題」など、総合請負業としての宿命的な数あるフェーズでの改革を求められています。

改善手順の基本は上流課題からですが、ただ、どんなフェーズであっても社内改善が進まない最大の勘違いと罠が、全て共通であることを知らなくてはなりません。その為にも、改善が進まない結論からまず述べていきたいと思います。

多くのビルダー様は改善の際に、既存の仕事に加えて、何か新しいことをいきなり始めてしまう傾向があります。つまりこれまでの内容を終わらせないまま、次の新しい内容を付加し、明確な目的なしに、物事を「足し算」で考えてしまうことが失敗に陥る全ての根幹であると言えるでしょう。

多くの心理学者も語っていますが、代表的な心理学者を引用すれば、ドイツ出身のアメリカの心理学者(クルト・レビン)は、組織や個人を変革するための方法として、「解凍・混乱・再凍結」という3つの基本ステップを唱えています。

ステップ1:「解凍」
まず第一ステップの「解凍」とは、経営者を含めて今までの思考様式や行動様式をそもそも変えなければいけないということを自覚して、変化のための準備をすることです。ほとんどのビルダー様の改善ケースは、この第一歩のステップから踏み外していることを謙虚に認識し、これまでの常識が非常識であるという仮説を立てるくらいの思考に転換しておくことが必要となります。

ここで注目すべき部分は、「変革=解凍」であることです。つまり、全てが「やめること」から始まっていることなのです。現場での5S活動にも日頃使っておられますが、頭の2Sである「整理・整頓」という言葉も実は全く異なります。整理は捨てる事で、整頓は効率よく並び替えるという意味があります。そんなスローガンが先行し、目的のない作業だけが工数をかけて推進されることで、ルールやマニュアルがあったとて、職人が安心して技能を発揮できる環境が現在与えられているのかを振り返って頂いた結果そのものが本質の答えなのです。

ただし「やめる、捨てる」というプロセスは最も難しい仕事であり、人間は変わる事に抵抗する生き物です。これまでの方法を忘れて新しいやり方に移行したり、ものの考え方そのものを変えたりすることは、ほとんどの人にとって苦痛に感じることなのです。まずはそれを心に刻むことからスタートしてみてください。変革とは、慣れ親しんだ環境や過去を終わらせることです。

ステップ2:「混乱」
解凍を終わらせたのちは、2つ目のステップである「混乱」が待ち受けています。以前の見方や考え方、あるいは制度やプロセスが無くなることで、苦しみと混乱が必ず到来します。

「やっぱり前のやり方が良かった!」という声が至る所から噴出してきます。マネージャーまでがその流れに加担し、一緒になって唱える会社も少なくないでしょう。こんな抵抗勢力に、やはりリーダー達は十分に実務面や精神面をサポートし、何より変革した先にはこのような抵抗勢力を予測しておかなければなりません。どれだけヒトが有能であっても、ここが本来のマネージャーを任命するためのあるべき資質なのかもしれません。

ここでのポイントは、第一ステップでの「解凍」のフェーズが不十分であればあるほど風当たりは強くなるので、解凍のステップでしっかり共有、共感させておくレベルまで時間をかけることが重要となります。これが多くのビルダー様での社内改善プロセスで至る所に見られる現実です。

ステップ3:「再凍結」
最後のステップでようやく新しいものの見方が根付いて定着する段階です。ここまできて、これまでの課題を払拭させるべき体制や仕組み、システムが稼働していく訳です。ある程度稼働したところで更なる修正が必要となり、「再解凍」という同じ手順を繰り返して行く必要があります。

このような流れで、是非改善を進めて行って頂きたいと思います。ただしどんな産業や企業でも同じことが言えますが、組織改革や社内改善が中途半端に挫折する共通理由がもう1つあります。それは、経営者は5年、10年先をある程度考えて物事を解釈していきますが、社員はせいぜい1年程度の視野感でしか見ることができないということです。

例えば、私が学生から社会に出た時代を振り返ってみても同様でした。私の社会デビューはバブル時代の後半でしたが、昭和という時代から平成という時代への移り変わりの中で、「バブル景気の終焉」という言葉のごとく、実は「終わらせる契機」を与えてくれていたにも関わらず、結局は「あの時代は良かったね」と山の頂上を振り返りながら下山する過程に終始してしまったのではないのかと振り返ってしまいます。

住宅事業そのものに価値を見出しにくくなってきた現代では、住宅事業そのもののビジネスモデルを改革し、売上額ではなく売上総利益(粗利)をいかにあげる付加価値に事業を転換するか、また、モノを製造するというプロセスにおいて圧倒的な生産性を確保できる「つくる仕組み」を過去の常識から脱却し、プロジェクトマネジメントからプログラムマネジメントにどう変革するのかという改革に挑戦していかねば、未来へ投資するキャッシュそのものすら確保できなくなります。

ビルダー様のこれからの社内改革は、痛みを伴いますが、「しっかり終わらせること」に力をいれ、キッチリやっておかないと、過去は亡霊のように現れて未来に暴れだします。是非、これまでの仕事を終わらせることで、どんな明るい未来と可能性が待っているかという中身を社員全体で共有共感し、これからの社内改革にチャレンジして頂きたいと願っています。