完全着工化が進まない理由とは?

完全着工化という言葉をよく耳にします。「完全着工」とは文字通り、建築工事を行う際に事前に計画通りの様々な準備を怠らず、し …


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完全着工化という言葉をよく耳にします。「完全着工」とは文字通り、建築工事を行う際に事前に計画通りの様々な準備を怠らず、しっかりと隅々まで完了させておくことです。この様々な準備というものを高い精度で完了させておくかで、着工後の仕事が効率よく回ったり、二度手間になってしまうことを回避できたり、さらには段取り良いオペレーションが実行できたりと、皆様方が日々一番願っていらっしゃることだとお察しします。

しかしながら、全国規模でみても実際に完全着工が出来ている会社は少なく、やれる体制を検討し、挑戦はしているものの、中々上手く推進できているケースは稀ではないでしょうか。

今日は、完全着工が進まない要因を皆さんと一緒に考え、少しでも早い段取りが出来るようになるポイントを学んでいきましょう!

 

まずは、完全着工をしたいと思う方が圧倒的に多いとは思いますが、このコラムを読まれている方々が、施工側のお立場の方ならばある程度納得されるかもしれません。一方、営業側の立場からすると、お客様の要望をギリギリまで叶えてあげることが顧客満足であるという主張もあるかも知れません。

ここで大前提として押えておかねばならないことは、このような「部門最適視点」での考え方はひとまず排除し、「全社最適視点」でどうあるべきなのかをしっかり考えていきましょう。

では、完全着工化を全社最適視点で考えていきます。絶対に必要な理由から紐解いていきますが、完全着工化の最大のメリットは、住宅を製造する全ての計画に対して着工前の計画と完工時の実態との間に誤差が少ない状況を作り出しやすいということです。つまり、性能面の整合性や品質面の整合性、また時間面の整合性や金銭面の整合性など、あらゆる条件において計画により近い状況にしやすくする最大のメリットがあります。

これは本来ユーザーとの請負契約で締結した内容をどれだけしっかり履行できたかにも置き換えられ、住宅事業者の使命でもあり、総合的な顧客満足にも直結する基本思考であると言えるでしょう。

例えば、営業部門がギリギリまで変更を受け付けてお客様の選択肢や期間を延ばすことがサービスだとした場合、営業マン個人のウケや評価は確かに上がりますが、製造側の部門は準備時間を充分に確保できないまま中途半端に着工をし、結果的にムリムダによる完工時の利益も減少し、伝達ミスによる手直しなどでより良い引き渡しにならないケースも多いのではないでしょうか?

完全着工化が進まない理由の大半は、住宅の売り方や商談の在り方で決まります。これは営業マンを否定しているのではなく、会社としての基本的な商品企画ができていないことや、業務フローが存在せず営業個人に依存しすぎている、ビルダー様の傾向が高いです。

完全着工化の課題は、設計や工務に問題があるケースも確かにありますが、それよりもさらに上流工程の商品の売り方や商談の在り方からバラついており、統制が効かない状態が設計へのオペレーション工数に影響を与えます。さらに設計から積算への原価精度や受発注精度にも業務が紐づいてしまうことで、結果、着工後の納材にも誤差が生じたり、手戻りや手待ちという事象から、工程計画にも二次的影響を受けてしまう厄介な負のスパイラルに取り憑かれてしまうのです。

 

それでは本来の完全着工化の基本構造を簡単に解説していきましょう。

まず完全着工の姿とは、着工を進めていくために、施工者(協力業者や職人)に対してQCDの視点から、指示ができる状態を指します。つまり、どれくらいの品質レベルの施工で、いくらの外注コストで、いつまでに仕上げるか?という指示が、全ての工事種において事前に明確に定まっている状態を意味します。

ここで皆さんに日々をイメージして頂きたいのですが、なんとなく着工前に図面を協力業社に送り、合わせて工程表と発注書を送れば完了という状態になっていないかということを、一度振り返ってみてください。施工管理アプリにアップロードして完了という一方的な業務になっていないかも併せて振り返ってみてください。確かに、QCD的な要素は含まれているとはいえ、この粒度であればかなり完全着工化は厳しいと言えるでしょう。

例えば、送った設計図書の不整合や見づらい表記はないのか?また、施工者が工事を進める上で、迷わない詳細指示まで記載されているのか?さらには、納める品質基準や施工要領は明確に伝わっているのかなど、自身が施工者である疑似体験下において細部までチェックや指示をしない限り、それは完全着工できる指示とは決して言えないでしょう。

このように実施設計を中心とした指示内容が曖昧であると、当然その図面から拾い出された材工リストも少し粗いものになります。特に材料では拾い出した数量の不確実性によって資材が現場で余ったり品番違いが起こったり、また当初予期していた以上に見えない手間がかかったりと、想定外の時間やコストに影響し、完工粗利で損失が生じるという流れになります。整理すると、完全着工化のポイントの1つに、このような設計図書精度という社内改善が最重要であることを改めて認識しておきましょう。

 

では、なぜ設計図書精度が上がらないのでしょうか?

皆様方の設計担当者や現場監督のチェックスキルという個人的な課題にすり替えるのはあまりにも短絡的な考え方で、ここだけに課題を集中させるのはいかがなものでしょうか。これはあくまでも会社の仕組みに影響していることの方が課題であると考えてみてください。

設計部門の業務フローにおいても、営業側の商談の仕方によって想定以上の工数がかかってしまったり、それによって積算業務にも工数影響を及ぼしてしまったり、なんとなく売上事情のための根拠もない無理な着工スケジュールが組まれてしまうことから、時間的に書きたくても書けない環境下にあるのかも知れませんし、記載するまでに至らない確からしい情報が設計担当者にしっかりと届いていないのかもしれません。

2つ目のポイントは、営業から基本設計、積算、そして実施設計業務から確認申請を経て着工前業務までの明確な業務フロー、そして役割及び承認権限設定までを明確なルールや管理規程を設定し、マネージャーによる徹底した管理統制を図ることが非常に重要なポイントになります。併せて各部門のマネージャー評価も、この社内業務フロー管理に対する統制力(タスク管理の成果)を報酬に反映されるなどの工夫も必要であり、専門職種としての能力と併せ、管理に対する評価も適切に行ってください。

 

以上、ここまでの2つのポイントを重点的に取り組みさえすれば、必ず社内のボトルネックが明らかになります。これがその会社の完全着工化を阻む『重点課題』となる訳です。

この重点課題が明確に抽出できれば、どのレベルまでの状況に上げれば正常に業務が回るのかという目標設定をします。これがKPI設定という訳です。このKPIのポイントは、できるだけ定性的ではなく、定量的な目標に設定してみてください。

例えば、『意識を高く持った伝達ミスの低減』などのスローガン的KPIは絶対に避けましょう。これを定量的に言い換えれば、『業務フローに記載された最大3回までのプラン変更の遵守』など、期日、回数、比率など、数値的な明確な目標設定だとわかりやすく、また評価測定も適切に行うことができるのです。もし3回というプラン変更下での業務が不可能な状態であれば、上限回数を増やして緩和するのではなく、さらに上流である住宅の企画化に着手し、3回までで打ち合わせできる規格の仕組みをつくることに課題をシフトしてみてください。

 

最後の3つ目のポイントは、このような重点課題を解決できたか否かを定期的に測定し、改善状況を把握することです。

ほとんどのビルダー様は、なんとなく業務フローが回り出したとか、社員が意識しだしてきたなどの心象的な視点から改善結果を評価してしまう傾向があり、本来の完全着工化に取り組んだ目的を見失いがちになります。どこまで行っても結果測定場所は、着工前の実行予算精度の観点と、完工時の粗利額、併せて引き渡し後の外部不良コストの3点をしっかり観測することを忘れてはなりません。これが製造業としての成果であります。

また完全着工化の課題修正は、着工後の製造プロセスで測定します。本来着工後の中心となる、品質管理、安全管理、環境保全の3つに集中したタスク管理をどれだけ生産性高く推進できたかを計測すれば、ここに集中できなかった要因として、どれくらいの緊急業務が発生したのか?またどんな対処業務が訪れたのか?のエビデンスを残す事ができれば、そのエビデンス情報全てが、着工前管理に対する精度の低かったカテゴリーを見分けることができ、次現場で生かすための対策が打てるのです。

このように現在ネクストステージでは、完全着工化のための正しい改善計画や、社内改善に向けてのスタート支援を行っています。非常に多くのご相談やご支援も増えてきておりますが、是非皆様も基本に立ち戻り、本質的な社内改善のトライアルに挑戦してみてください。