建物価値を考える時代(とき)に向かう

2000年に制定された品確法から22年目を迎え、やっと住宅性能に対する認識や関心もユーザーの価値観として根付いてきました …


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2000年に制定された品確法から22年目を迎え、やっと住宅性能に対する認識や関心もユーザーの価値観として根付いてきました。このユーザーへ根付いてきたポイントは、やはり性能を数値化(定量化)したことにわかりやすさがあったからだと言えます。当初の品確法の骨子は、瑕疵保証、紛争処理、性能表示という3つの視点から、ユーザーの安心・安全な住宅取得環境を実現していく目的からのスタートでした。

時を経て、今やCO2削減というカーボンニュートラルな市場の構築を、人が暮らす世界環境までを意識したZEHや省エネ政策が中心に行われるようになりました。何より日本では2011年3月11日に未曾有の災害であった東日本大震災がおこり、原子力発電も含めたエネルギーの在り方そのものにも関心が集まったことで拍車がかかったと言えるでしょう。

一方、住宅のストック化(長寿命化)に向けた、耐震・劣化・維持管理に対しても長期優良住宅を中心とした推進の流れが一様に広がってきた事を考えると、これまでの国の取り組みは、ある一定の成果だったと言えます。しかしながら、これから我々業界人が考えていかなくてはならないのは、建物価値そのものに対してであり、裏返せば取得されたオーナーの資産価値でもあり、国における社会資産でもあるという事をそろそろ真剣に考えていかなくてはならない時代に来たのです。

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皆様に少し考えていただきたいことは、これだけ高性能な住宅が今まで以上に普及してきたにも関わらず、従来の住宅と比べても、未来への価値や特典が全くないことは、単純にイメージしても違和感があります。新築時の性能スペックが設計段階でどれだけ高くとも、また第三者検査を施工中に導入しながら安定した品質をどれだけ確保しようとも、引き渡し後の履歴を含めた点検、メンテナンスといった徹底した維持管理をどれだけ実施したとしても、残念ながら20年という経過年数でほとんどの建物は価値を失ってしまうという現実を打破していかねばならないのです。

既に昔の住宅とは違い、今の住宅のスペックは様々な角度からみても年々向上していることは間違いありません。ならば、高耐久、高品質、高性能といった住宅は、もう既にある一定時期からでも建物自体に価値を算定できる仕組みが不可欠だという事は、現在ハウスメーカーが主導で推進しているスムストックを見ても、内容はともかくあるべき姿なんだと思います。

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ここで皆さんに1つ、国の政策に対する不可解な大きなギャップを知っておいていただきたいのです。

わかりやすく説明すると、仮に地域の工務店版スムストックが成立した場合、国が推進する様々な住宅ストック政策やCO2削減政策などは、ほとんどが設計段階での政策に過ぎないということがわかります。

長期優良住宅についても、省エネ住宅、ZEHなども同様、設計段階での計算の中で成り立つ審査でしか定量的評価がなされないという点に、実質性能という観点では現実ではかなりギャップがあるのです。

唯一、性能評価制度については、設計と建設の2つがありますが、残念ながら建設性能評価では、せっかくの数回に渡る第三者検査の中でも、設計図書を中心とした仕様チェックに過ぎず、施工品質に対する評価は全くといって機能していないと言えるでしょう。

今後、空き家対策なども踏まえて真剣に考えていくとなると、ただ既存住宅を闇雲に除却することではなく、本来残しておくべき建物と、むしろ除却した方がよい建物があるはずなのです。

この判断の原理原則は、名目上の設計段階での想定性能だけでなく、製造時、また維持管理時の実質的な定量的評価を実現しない限り、既存建物の未来の資産価値をユーザー視点でわかりやすく浸透させる事はできないでしょう。

これからは人口、世帯数共に減少して行きます。そして間違いなく建物資産への本質的な課題が浮き彫りになるはずです。このような業界のあるべき姿に近づいて行く為にも、2022年から民間企業の様々なテクニカルな仕組みやデジタル推進を活性化させ、『設計 → 施工 → 維持管理 → リフォーム → 除却』という建物の一生涯を各々のステージで統一した定量的評価を基盤化させる事で、そこには新たな金融や不動産との積極的な連鎖が生まれてくるに違いありません。