2020年の全国の住宅会社の製造における社内課題アンケート結果の第2位に躍り出たのは、実は設計図書精度に関する課題でした。
この課題は当然施工品質向上への近道でもありますが、逆に難易度が高く、課題だと解っていても中々社内改善が進まないといった、今や住宅建築の最重要課題だと言えるでしょう。
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設計図書に関して表面的に感じられる課題としては、構造計算や性能に関する検討などが意識されがちです。何故かというと、最近様々な見識者からのアドバイス動画や学習講座が出始めていることから、この辺りの検討精度をやたらと執着されるようになった事が1つの要因でしょう。
当然、上記の内容はこれからの住宅供給における耐久性や耐震性の向上に向かって進化しないといけないことであり、また主要構造に関する大切な部分だけに、設計士としての個人的なスキルアップはこれから一段と避けることが出来なくなるでしょう。
しかしながら、今回の設計図書精度に関する課題には、実は上記の内容では、課題の根幹にはあまり踏み込まれていない事をここで認識して頂きたいのです。
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設計士という専門家は、先生視点での論理や概念、場合によっては経験値や主観的な理想に行き過ぎる点も否めません。何故ならば、製造前の理想と製造プロセスの現実の実態の見識にかなりのギャップがあるからなのです。
それは実際のプロセスデータ量や実践データ量が圧倒的に少ないという事と、起きてしまった欠陥事例や倒壊事例を中心に紐解いて行き過ぎるからなのです。
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では、欠陥として表面的に出ていない危険な建物はどれくらい潜んでいるのでしょう?恐らくイメージしただけでも、かなりの欠陥潜在物件が隠れているに違いありません。
そんな業界の本質の課題を、1棟でも解決できる仕組みというものに、もうそろそろ着手していかなくてはならないのです。
それでは逆説で紐解いていきましょう!
まずは仮に、最高の性能を確保できるプランニング、配置、資材スペック、仕様などがしっかりと検討され、さらに完璧な構造計算と適切なディテールが先生の力を借りて作り上げた設計物件があったとしましょう。この物件がお客様にとって、最大限の付加価値と素晴らしい引き渡しができると確信できますでしょうか?
恐らく着工前の瞬間風速では、理想に近い素晴らしい仮説的満足を得られる事は間違いありませんし、付加価値という点でも従来の建物と比べれば確かなビハインドがあることも間違いありません。
しかしながら、設計図書精度と言われるものは、設計視点での精度ではなく製造視点でどれだけ精度が高いか?という事が大切なのです。
お客様とお約束をした契約内容と完成するもののギャップを如何に埋める事ができるか、つまり、図書媒体の挑戦であると言っても過言ではないでしょう。
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ここで住宅品質に影響するリスクフローを一緒に検討していきましょう。
まず設計図書精度が低い事で、何から影響するのでしょうか?着工前準備フェーズから紐解いていくと、第一に協力業者への原価に対する影響です。
この精度によって拾い出す数量や長さなどにバラつきがでると原価に影響が生じ、実行予算粗利と完工粗利との偏差が大きくなってしまうのです。
次に着工後のフェーズでは、その原価精度の影響で、受発注管理や納材管理に影響が生じ、さらには工程管理や品質管理にも波及します。ムリ、ムダ、ムラといった時間ロス、材料ロスに大きく繋がるという訳です。
それはお客様にとって最高の引き渡しという理想には、仮にクレームがなくとも、中々辿りつかないとい残念な結果を導いてしまうのです。
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このような事を回避するためにも、以下の7つのタスクをしっかりと認識し、是非、着工前に必ず精一杯の検討に挑戦していきましょう。
- 設計図書の種類と各図面の不整合
- 設計図書の記載内容と視覚配慮
- 確認申請添付図面と現場実施図面
- 請負契約添付図面と現場実施図面
- 施工実現性の是非(納まり、通気など)
- 構造計算書と金物図や構造図
- 図面バージョン管理
以上の7つをしっかりと社内チェックし、工事着工に挑んでみてください。
そして竣工後フェーズにも1つ、実は大切な事があります。それは竣工図です。
今や維持管理業務は事業主にとっても大切な役割となりましたが、やはり竣工図をしっかり維持管理業務の為にも整備しておく会社は非常に少なく感じます。
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今回は設計図書にスポットを当て皆さまにコラムで発信させて頂きましたが、やはり地域産業の使命として、素晴らしい引き渡しを連続させることに意義があって、結果、次のユーザーとの新しい出会いがローテーションされて行く訳ですから、最高の引き渡しの為の製造視点での設計図書精度という思考を改めて強く持って頂き、明日からチャレンジして頂きたいと願っております。