施工管理アプリ普及が、逆に生産性向上させない真の理由

昨今、施工管理アプリというツールが各社からこぞってリリースされ、ビルダーシェア率もかなり増えてきました。通信技術の進化か …


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昨今、施工管理アプリというツールが各社からこぞってリリースされ、ビルダーシェア率もかなり増えてきました。通信技術の進化からあらゆるデバイスの普及で、管理を効率良くしていきたいという理由で広がってきたものと言えます。
一方、ビルダーの住宅製造における人材リソースも厳しくなってきた事で、なおさら業務生産性を上げたいという課題解決の手段として、導入に踏み切るビルダーも多いのではないでしょうか。
個人的に私も非常に素晴らしい仕組みで使い方によっては最高のパフォーマンスを生み出せると考えています。

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しかしこれだけ普及してきた施工管理アプリですが、運用実態としては、アプリメーカーが色々なシーンの便利をイメージして機能開発を拡大していく反面、限定的な機能しか使われていないという現実と、またそれが使いにくいといった理由に置き換わり、他社のアプリに乗り換えるといったツール会社の綱渡り現象が非常に目立ってきています。
その結果、生産性は実質的に向上しているのか?という命題に対する、一つの答えを今月のコラムでお話ししていきたいと思います。

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ズバリ答えは一言で、『生産性向上を測定するというフェーズにもまだまだ至っていない』です。つまり、生産性向上には全く至っていないと言っても過言ではありません。
読者の方々からは、『我が社は非常に効果が出てるよ!』という方も中にはいらっしゃるとは思いますが、それは生産性向上というよりもむしろ、業務効率向上という成果が正解なのかも知れません。
なぜならば、生産性向上の成果を労働的な要素での生産性のみで考えてしまう傾向があるからです。
売上と原価の関係性を見る売上総利益も大切なのですが、営業利益に対して費用全体から見るサービス付加価値的な要素での生産性を上げていく必要があるからです。

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まず、家づくりというサービス付加価値的な要素からみる生産性向上とは、『ムリ、ムダ、ムラを解消すること』で向上します。つまり利益計画通りに利益が残るという至ってシンプルな事です。その為には、完工までの突貫。完工後の残工事、手直しなどがほとんどなく、結果、クレームになりにくく利益減額がほとんどない状況だと言うことです。

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次に、『ムリ、ムダ、ムラを解消する』という事は、具体的にどうする事かというと、『ムリ』は採算工程管理精度。『ムダ』は原価管理精度。『ムラ』は品質管理精度となります。
ではこの中で一番重要なことは何だと思いますか?
もし重要度から優先順位をつけるとすると、まず『ムダ』の解消です。
ここで恐らく皆さんは、ムダの解消を施工管理アプリで改善したいと考えるのですが、この思考が『業務効率化』に転換されてしまう事で、ムダの本質的改善には至りません。
なぜならば、『ムダ』の改善の根本は原価精度の低さにあるので、低い原価精度から拾い出された材料や手間の数量単価は、受発注精度に影響し、それに紐付いて納材管理精度にまで影響を及ぼすからなのです。
この課題の根幹は、『実施設計図書』の脆さに全て集約されます。これを皆さん、忘れないでください。

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次に、採算工程管理精度です。
採算工程とはわかりやすく言うと、早くもなく遅くもない、品質を落とさないレベルでの一番コストのかからない、割の良い工程スピードとタイミングを言います。
工程計画は非常に重要なのですが、実はどれだけ精度高く計画したとしても、着工前準備として大切な前者の『ムダの解消』がなされない事から、工事が着工したとたんに手戻りや手待ちによって、計画した工程計画も一瞬にして崩壊してしまうという事なのです。
これを、着工前準備の連鎖崩壊と言います。つまりこの段階で、8割良い引き渡しは既に望めないのです。

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最後に、品質管理精度です。
これは『ムラ』をいかに解消するかであり、施工品質精度に加え安全管理精度と環境保全管理精度も含めた品質管理を指します。
特に『ムラ』は、全て現場ですべき仕事にほとんどの問題が集約されますので、直接的なクレームや後戻り、また生涯顧客化までも失う非常にリスクの高い重要な役割なのです。

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以上、『ムリ、ムダ、ムラ』の解消を具体的にお話ししてきましたが、これらを見て、全て施工管理アプリで解決できますでしょうか?
答えは『No』です。
冒頭、施工管理アプリの利用実態が限定的だと言った通り、チャット機能、図書図面共有機能、写真撮影機能、報告書出力機能など、こんなところだと思います。
つまり、この機能を利用する事で『ムラ、ムダ、ムラ』を根本的に解消するという事は、あり得ないのです。

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『ムリ、ムダ、ムラ』の解消は、全て現場監督や設計士の主体業務です。この主体業務をいかに効率的に実施するかというところは必要なスキルですが、上記のアプリ機能では、本来の主体業務をすべて付帯業務化させているだけに過ぎないのです。
具体的にわかりやすく例えると、基礎配筋時で有れば、鉄筋のかぶり厚さや定着の長さ、配管部の適切な補強筋、多重結束などの状況が、自社の基準に対して配慮されているか。また適合しているか。万一怠っていれば、是正してしっかり前に進めるといった品質管理が『本来すべき主体業務』なのです。
しかしながら、アプリで施工写真を撮影してエビデンスを残すといった『作業化した付帯業務』と化してきた事に私は危機感を覚えるのです。

今や現場監督の仕事の認識が、『品質管理=写真撮影業務』という役割に変わったのであれば、既に現場監督としてのスキルアップは絶望的であり、ここで修正すべき事は、あらゆる仕事の目的を明確にすることと、役割をしっかり体系化した中でわかりやすいタスクに置き換えてあげる事が、今、重要なのではないでしょうか。

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私が冒頭、施工管理アプリは使い方によっては、最高のパフォーマンスを発揮すると申しましたが、それは、主体業務と付帯業務を明確に選別し体系化した中で、『付帯業務だけを徹底的に業務効率化させる』という事に最大のメリットがあるわけで、主体業務を作業化させるものではないという事に早く気づいて頂きたいのです。

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