これからのビルダーズベネフィットを考える

この住宅産業界では昔から地域ビルダーに対して、色々なサービスが繰り返し提供され、また新たなサービスが繰り返し生み出され続 …


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この住宅産業界では昔から地域ビルダーに対して、色々なサービスが繰り返し提供され、また新たなサービスが繰り返し生み出され続けます。

家づくりはtoCサービスという小売業の立ち位置なので、やはりメーカーや流通などからサービス提供を受ける機会が多かったのではないでしょうか。

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今までのサービス形態は、顧客の先にあるユーザーニーズから生まれる事がほとんどでした。特にお施主様に対する暮らしの提案や、機能の提案など、“建てる”という内容より“住まい”というキーワードに注力し、ビルダーの多くは建材や住設メーカー、またFC、VCなどとタイアップして、ユーザーに対する付加価値付けをしてきたのです。

しかしながら現在は、昔とは知り得る情報環境が集中型から拡散共有型に変化してきた事から、ビルダーとして提案する以上にユーザー側が情報を知り得ている事が多くなってきたので、従来のような流れではユーザーにはなかなか響きにくくなってきているのです。

ユーザーは、予めどんな暮らしがしたいか?またどんな住み方をしたいか?という意思が予算や時期も含め、明確なイメージを作り上げてきています。その傾向として、競合社数が以前は複数社からの相見積もりだった環境から、最近では2社択一という環境に変わってきたという傾向も、その理由の1つではないでしょうか。

このような背景から、意思が明確なユーザーの予算や仕様、立地、機能、性能、品質など、顧客主導条件の中で如何に住宅を受注し、製造できるか?という命題をクリアする事が最近のビルダーにとっては大きな課題となり、それに連れて業界ビジネスも、これからはビルダーが抱える課題解決サービスが増えていくと考えられるのです。

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では現在、ビルダーが抱える課題の多くはなんでしょうか?
実は、そのほとんどが製造プロセスなのです。

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例えば『性能』というキーワードは、今やユーザーにとっても当たり前のキーワードになりました。

しかしビルダー側では性能表示でも明確になっている耐震や断熱、また維持管理など、10このカテゴリーの1つだとは解っているのですが、所詮、これもユーザーが求める要求を単なる仕様スペックで対応している会社がほとんどではないでしょうか?

つまり設計段階でのレベル想定で、何とかユーザーに納得させ捌いているレベルだという事です。

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他業種では当たり前なのですが、本来であれば、製造された住宅そのもの現物がそのスペックで無ければならないという事を証明しないといけないのですが、恐らくビルダー側も解っていながら中々本質的に真っ向勝負しない現実もあります。

その理由には、原価や製造リソースといった、社内の身の丈事情が関与しているという訳なのです。

省エネに対する考え方は、本来現物性能が竣工後の経過する未来の時間によって成す効果でなければなりませんし、長寿命や高耐久も、まさに製造された現物品質と維持管理の実践レベルでしか無い事をそろそろプロとして理解しなければなりません。

仕様と品質また設計と監理など、一気通貫のようで全く違うエネルギーなのです。

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これからのビルダーズベネフィットとは、ビルダー製造プロセスの身の丈を少しずつレベルアップさせて行く事が、つくり手側の恩恵ではないでしょうか。

これは業界全体が抱えている課題そのものでもあります。

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まずは施工管理のモノサシづくりから体系づくり。そして職人の施工手順や目指す品質基準など、この原点からしっかりと足並みを揃えていく事で、ムラを無くす事に繋がります。

また設計監理の基盤を固め、設計図書精度の改善から拾い出される数量を含めた原価の精度が上がれば、それに紐付く受発注精度と納材管理精度も連動して向上するはずですので、ムダを無くす事に繋がります。

さらに、自社の設計スペックをしっかり作業分解し、クリティカルパスメソッドで、適切な採算工程を導き出すことと、前段の設計図書精度が上がる事とのシナジー効果を生み出し、工程管理精度が向上することで、ムリを無くす事に繋がります。

このように、ムリ、ムダ、ムラの3つの矢をしっかり改善して行く事で、結果、生産性が向上するという訳ですので、何かアプリを導入して生産性が上がるというのは、あくまでもオペレーション作業が効率化した事と勘違いしてはいけないという事です。

最近の流通からの提案が弱くなってきたのは、ユーザーが知り得るレベルの材料を中心とした従来型提案から変わらない事を意味します。まさしくこれからのビルダーズベネフィットとは、『建てる』というキーワードで、施工視点から設計視点への風上支援を本質的にバックアップできるサービスや、竣工後の維持管理や企画品質のディテールリサーチなどの風下支援こそが、これからのつくり手が望む恩恵であると確信しています。

今ユーザーが唯一知らない事が、新築住宅は『ちゃんと建たない』という事実であることを、我々プロが謙虚に理解し、いち早くそのギャップを企業努力の中で改善し、成長していく事ではないでしょうか。