「雨漏りが心配」「壁や天井にシミができている」といった理由からリフォームを考える方も少なくありません。実は、こうしたトラブルの背景には、雨や湿気を防ぐための防水シートの欠落や施工不備が原因として隠れているケースが多くあります。
住まいを守るためには欠かせない防水工事ですが、実は長らく明確な施工基準がありませんでした。2009年の「瑕疵担保履行法」施行により一定のルールが整えられたものの、中古物件の中にはそもそも防水シート自体が張られていないような物件も存在します。
さらに、防水シートは外壁をはがさなければ確認できない部位のため、問題があっても発覚しにくいのが現実です。その結果、想定もしなかった補修費用が重なってしまうケースも多くあります。
そこで本記事では、第三者監査・建物調査の専門家として数多くのリフォーム・リノベーション現場を見てきた山下に、実際に起きた防水トラブル事例をもとに「なぜ起きるのか」「どうすれば防げるのか」を聞きました。
肩書 山下 陽平
大学在学中から、教授の構造設計事務所で建築の経験を積む。卒業後も同事務所に勤務し、有名建築家と連携して多数の著名建築物の構造設計に従事。一級建築士資格の取得後、地元の不動産会社に勤務し、住宅の欠陥やトラブルに直面したことを機に独立。第三者の立場で建物調査や鑑定を行う事務所を設立し、弁護士と協働して多くの裁判をサポート。その後、検査会社や監査基準策定に関わり、現在は「建築トラブルのない社会」を目指し、第三者監査に特化するネクストステージで活動中。
築30〜40年の家に潜む見えない危険と防水基準が整備されるまでの流れ
まず理解しておきたいのは、住宅の防水工事には長い間「明確な法律が存在していなかった」という事実です。これは、住宅業界が抱えてきた大きな構造的課題のひとつでもありました。
現在では当たり前のように行われている防水工事ですが、その基準が整備されるまでには長い時間がかかりました。法整理の流れを整理すると次のようになります。
- 2000年:「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が制定
- 2005年:公共工事の品質確保を目的とした「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が制定
- 2009年:「瑕疵担保履行法」が施行→現在の「瑕疵保険制度」につながる
これらの法律が整備された背景には「施工不良が多すぎて保証制度が機能しない」という深刻な問題がありました。特に防水工事は、瑕疵担保履行法が施行されるまで建築基準法にも明確な規定がほとんどなく、曖昧なルールのまま進められていたのが実情です。
そのため、1990年代以前に建てられた住宅の中には、防水に関する施工が「職人の感覚」に頼っていた時代も長く、結果として品質のばらつきが大きくなりました。
長年経過した住宅では、防水に関する明確な法律が整備されていない時代に建てられたため、外壁がきれいに見えても内部の防水が不十分であったり、そもそも防水シートが存在しないケースも珍しくありません。
そのため、中古住宅は「防水不備が潜んでいる」前提で購入を考える必要があります。外壁が完成した状態では内部の防水状況が確認できないため、リフォーム工事の途中で初めて不備が見つかるケースが多いです。
現地調査の段階では、サーモグラフィーを活用すれば外壁内部の雨漏りや断熱欠損をある程度把握することができます。また、建築履歴や施工写真を施工会社からもらっておくことで、施工の丁寧さや品質を推測する材料にもなります。これにより、必要な補修や予算の目安を事前に立てられるようになります。
だからこそ、リフォームを行う際には事前調査が極めて重要です。しっかりと調査を行うことで、リフォーム工事中に想定外の追加費用を防ぎ、長く安心できる住まいをつくるためにも、ぜひこれから紹介する事例を参考にしていただければと思います。
上下・左右の重ね部分も要注意!わずかな差が雨漏りの原因に
まず、外壁下部に設置される防水シートについてです。住宅を安全で長く安心して使えるようにするための最低限のルールである、瑕疵保険の設計施工基準では、シートの設置範囲は白い線から上の切れ目まで9cm以上と定められています。しかし、実際の現場ではこの基準を満たしていないケースが確認されました。さらに、破れたようなシートや余った切れ端のようなシートを使用しています。
本来、防水シートはまっすぐで状態のよいものを使用すべきで、こうした施工は不適切です。
また、こちらは左右方向の防水シートの重ね部分です。こちらも、瑕疵保険の設計施工基準では15cm以上の重ねが必要ですが、現場ではわずか7cm程度しか確保されていません。
水は防水シートに触れると横方向にじわっと広がる性質があります。そのため、十分な重ね幅を確保することは雨水の侵入を防ぐ上で不可欠です。
雨漏りの原因はここにある?配管の傾きが雨漏りの決め手
次の事例は、ダクトなどの壁を貫通し、外部に露出する配管部分になります。中古住宅では配管まわりのトラブルが多く、貫通部の施工には防水上の注意が欠かせません。
この事例では、微々たるものではありますが、配管の外側が高く・室内側が低くなるように取り付けられています。写真の水平器を見ると、気泡が左側に寄っているのが確認できますね。
本来は、気泡が右側に移動するように室内側をわずかに高くするのが正しい施工です。そうすることで、外部から雨水が侵入しても自然に外へ流れ、室内への水漏れを防ぐことができます。
室内側が低い状態だと、雨水が室内へ流れ込みやすくなり、雨漏りの原因になります。近年は強風時の吹き込みによる水の侵入も増えており、こうした施工不備は住宅の耐久性に影響を与えてしまいます。
配管に関しては、排水管が固定されていないケースも多いです。本来は専用金具でしっかり支持する必要がありますが、固定が不十分だと排水の振動で接続部分が外れ、床下が水浸しになることがあります。そこからカビの発生につながる可能性もあります。
また、防水とは異なりますが、水に関係する不備として排水管の勾配不足もよく見られる不備です。適切な勾配がない、床に置かれたままになっている、平らな距離が長いといった状態では流れが悪くなり、詰まりの原因となります。
配管の修正は可能ですが、床下の作業は狭く、内部に残った残留物が出てくる場合もあるため、簡単ではありません。こうした作業環境の厳しさから、適切な改修が後回しになり、結果としてトラブルが発生しやすい状況が生まれていると考えられます。
防水トラブルは現場ではなく設計にあることも
これまでご紹介したような事例に加えて、設計段階の設計者による理解不足がそのまま不備につながっているケースも少なくありません。
たとえば、実際に起こった事例ですが、窓周りのスペースがほとんど確保されておらず、壁の端ぎりぎりに窓が設置されていました。実際に施工を試みたものの、防水シートを十分に張ることができず、結果として雨漏りが発生。
このような状態では、どれだけ現場で頑張っても「正しい防水施工が物理的に不可能」となり、結果として雨漏りを招くことになります。そして、この設計上の欠陥を放置したままリフォームで防水をやり直したとしても、同じ問題が再発してしまいます。
中古住宅は防水不備「ありき」!購入前の専門家と現場確認がカギ
これまで見てきた通り、防水工事は家づくりの中で最も重要でありながら、最も確認しづらい工程です。お施主様が施工状態を自らチェックできる範囲が非常に限られており、実際に確認できるのは主に1階部のみです。
そのため、中古住宅の購入やリフォームを検討する際には、必ず専門家と現場に同行し、防水に重大な問題がないかを確認することが最も確実な対策となります。
大切なのは、信頼できる専門家とともに「見えない部分の安全」を確実に守ることです。安心して暮らせる住まいづくりのために、専門家の知識と経験を上手に活用してください。