新築でも、中古でも「冬になると部屋が寒い」「床が冷たい」「エアコンをつけても暖まらない・冷えない」そんな悩みを抱えている方は少なくありません。実はそんな声の裏には、断熱材の欠落や施工不良が隠れていることがあります。

断熱は、住まいの快適性やエネルギー効率を左右する重要な要素。にもかかわらず、壁の中や床下、天井裏など目に見えない場所に施工されるため、問題があっても気づかれにくいのが実情です。

2026年現在、省エネ基準や施工ルールは整いつつありますが、特にリノベーションの対象となるような中古物件では、施工ルールが明確でない状況で建てられているため、断熱材が正しく施工されていないことは多くあります。

既存の建物の状態を正しく把握しないまま工事が進むと、図面や外観では分からない「内部の欠陥」が見逃され、工事後に雨漏りや結露、構造の劣化として表面化してしまいます。

そこで本記事では、第三者監査・建物調査の専門家として数多くのリフォーム・リノベ現場を見てきた山下に、実際に起きた断熱トラブル事例をもとに「なぜ起きるのか」「どうすれば防げるのか」を聞きました。

肩書 山下 陽平
大学在学中から、教授の構造設計事務所で建築の経験を積む。卒業後も同事務所に勤務し、有名建築家と連携して多数の著名建築物の構造設計に従事。一級建築士資格の取得後、地元の不動産会社に勤務し、住宅の欠陥やトラブルに直面したことを機に独立。 第三者の立場で建物調査や鑑定を行う事務所を設立し、弁護士と協働して多くの裁判をサポート。その後、検査会社や監査基準策定に関わり、現在は「建築トラブルのない社会」を目指し、第三者検査に特化するネクストステージで活動中。

リフォーム・リノベーションでは、事前調査と仕上げ前の補修がカギ

リフォーム・リノベーションを前提に中古住宅を見るときには、いくつかのチェックポイントがあります。

まず室内では、壁に不自然なひび割れがないかどうか。乾燥収縮によるものと、構造的な強度不足によるひび割れは、割れ方がまったく違います。後者のような「変な割れ方」がある場合は、構造体に問題を抱えている可能性が高いんです。

次に、シミや変色。これは雨漏りか、あるいは結露によって発生している可能性があります。室内で異常を見つけたら、原因を特定する必要があります。

最後に、天井裏と床下。ここは実際に潜り込んで目で確認していきます。

こうした確認で見つかる不備はさまざまですが、今回は「断熱材の施工不良」に絞って事例をご紹介していきます。

今では、断熱の基準は省エネ法などで明確に定められ、どのように施工をすべきかも法律で決まっています。ですが、基準が強化された1999年まではそんなルールは存在せず、ちゃんと施工がされていなくとも「法律違反」とまでは言えませんでした。

当時の住宅品質は職人の力量や意識にすべてが委ねられていたと言えるため、いい加減に施工されている住宅が多かったのが現実です。

そのため、築年数がある程度経過した住宅のリフォームやリノベーションにおいては「正しい知識を持った人による事前調査を行えるか」「仕上げ前にどれだけ悪い部分を見つけてリフォーム内容に盛り込めるか」が重要になります。

逆に、しっかり調査と補修を行えば、新築と変わらない品質を実現することも可能なので、ぜひ、これから紹介する事例を参考にしていただければと思います。

断熱・防水・防火、すべてに不備。フルリノベが必要だった中古住宅

まずは、飲食業界に従事されていた、とあるご夫婦の事例です。ご主人から「家を買いたいんだけど、ちょっと相談に乗ってほしい」と連絡が来たんです。

お子さんが4人いらっしゃり、教育費などもかさむことから、家にかけられる予算は限られている。そこで「中古住宅を買って、リノベーションして住もう」という計画を立てたそうです。とはいえ、どこまで補修すべきか判断できないということで、候補物件の調査依頼をいただきました。

問題の物件は築40年ほど。天井裏に入ってみると、写真(下)の通り外壁の裏側に断熱材がまったく入っていませんでした。写真でいうと、縦の線が入っているところが外壁の裏側で、本来であれば断熱材が充填されていなければダメ。そのまま見えてしまっている状態は明らかにおかしいんです。

屋根の三角形の頂部には、古い断熱材が少しだけ残っていましたが、本来入っていなければならない部分には何も入っていない。さらに、防水の施工も確認できませんでした。

防水施工がないということは、外壁の隙間から水が侵入すれば、止めるものが何もない。仮に断熱材が入っていれば、その断熱材が水分を吸ってカビが発生するリスクもあります。

つまり、この家は断熱・防水・防火のいずれの観点から見ても、再利用が難しいレベルで、この時点で「この家は買わないほうがいい」と判断しました。

そもそも防水は外側から、断熱材は基本的に内側から施工するものなので、直すには内壁をすべて剥がしてやり直す必要があります。したがってこの家は「骨組みだけ残してフルリノベーション」が必要ということになりますが、長年住み慣れた家や思い入れのある自宅でもなければフルリノベーションを選ぶ必要はないですよね。

今回のように、中古物件を購入してリノベ前提で住もうという人にとっては、思い出もなく、コスト面でも非現実的です。結局、このご夫婦も購入を見送りました。3年後に別の中古住宅を購入され、理想の住まいにたどり着いたと聞いています。

「2階が暑くて寝られない」断熱ゼロ住宅だったことが判明した豪邸

次の事例は、とある士業の方のご自宅のケースです。このご家族は経済的に余裕があり、大きな豪邸を建てて住んでいました。ただ、もともと家全体が少し傾いており、床もブカブカする。築年数が経ったこともあり、これを機に「大規模なリノベーションをして快適に住み直したい」と考えたそうです。

ところが、リノベーションを担当する業者さんがこの家の天井を見たときに、すぐに違和感を覚えた。「これはちょっとおかしい気がする」ということで、私に調査の依頼がきました。

実際に天井裏をのぞくと、写真ように木が組まれているだけで、断熱材がまったく入っていませんでした。お子さんたちは当時、夏になると「2階が暑くて寝られない」と言っていたそうです。一軒家はそんなものだと思っていたらしいのですが、実際は屋根からの熱が直接室内に伝わってしまっていた。屋根断熱がまったく効いていない、断熱ゼロ住宅だったわけです。

結局、天井裏以外にもたくさんの施工不良が見つかり、最終的には住宅会社との裁判まで発展しました。また、この家はかなりの豪邸だったため、屋根に新しく断熱材を入れるなど、リノベーションの追加費用も1,000万円以上かかってしまいました。

断熱材が天井裏に山積み…「断熱は大工の仕事ではない」時代があった?

次の事例は、平成に建てられた比較的新しい家です。写真の下半分が天井部分になります。中央の三角形のところには、折りたたみ式の天井収納階段がついていました。

本来、このような部分には断熱材がきちんと施工されている必要があります。写真を見ると、梁の下に白っぽい断熱材が少しだけ確認できますが、ほんの一部だけ。しかもその施工も「ただ入れてあるだけ」の状態でした。

固定がされておらず、長年の湿気の影響で徐々に下がってしまっていたんですね。通常は「タッカー」と呼ばれるホチキス状の工具で、断熱材の「耳」の部分を柱に留めて固定します。業界ではこの作業を「耳止め」と呼びますが、この家ではその耳止めが行われていなかったのです。

その結果、断熱材が垂れ下がってしまい、配線の隙間まで見えてしまっていました。本来なら外気を遮断するべきところに隙間ができ、冷暖房効率が落ちるだけでなく、結露やカビの原因にもなりかねない状態です。

さらに天井断熱も全く入っておらず、代わりにひとつの部屋の天井裏に断熱材が積み上げてありました。たぶん、あとで施工するつもりでばらしておいたのかなと思ったのですが、量をチェックしたところ、家全体に使うには全く足りない量で、最初から正しく施工する気がなかったことがわかりました。

実はこの家を施工したのは昔ながらの田舎の大工さんで「断熱は自分たちの仕事じゃない」という感覚のまま工事をしていたようです。指摘しても「あとでやるから」と言って逃げてしまい、結局きちんと直されることはありませんでした。

最終的には、私が知り合いの大工さんを紹介し、その方が断熱材を上からできる範囲で詰めて施工を行い、以前よりずっと暖かく住めるようになったそうです。

床の断熱性能はほぼゼロ!新築なのにリノベーションが必要に

次の事例は新築住宅の話ですが、参考までにお話しします。家は完成したものの、完了検査で「不適合」とされ、法律上「住めない家」になってしまったケースです。

もともとは住宅会社との間でトラブルがあり、お施主さまは最終支払いをストップしていました。「他の検査機関にお願いして、きちんと確認してもらいたい」と別の業者に完了検査を依頼したところ、役所から「この家は建築基準法に違反しており、現状では居住できません」と指摘を受けたのです。

それだけでなく、約束していた仕様と違う箇所も数多く見つかりました。結局「新築なのにリノベーションが必要」という異常な事態に。その不備のひとつが床の断熱でした。

実際の床下の写真を見ると、奥に白い断熱材が見えますが、本来この部分には隙間があってはいけません。また、断熱材が落ちないように細い木材で斜めに固定しているのですが、この取り付け方も誤っており、重さでずれて下がってしまっていたんです。

さらに問題だったのが、断熱材の位置そのものが間違っていたこと。床の構造を簡単に説明すると、基礎の上に「土台」があり、その上に「根太(ねだ)」という細い木材を等間隔で並べ、その上に床板(合板)やフローリングを張るのが正しい順番です。

断熱材は、本来この根太と根太の間、つまり床のすぐ下に密着する形で施工しなければなりません。ところが、この家では断熱材が根太の下側に取り付けられており、断熱層の上に空気が通る空間ができてしまっていたのです。

この「空気層」は冬場の冷気を直接室内に伝える通り道になってしまい、断熱性能はほぼゼロになってしまっていました。

お施主さまは「もうこの業者とは一切関わりたくない」と決意し、自費で専門家を入れて不具合箇所を直すことになりました。この件は裁判にまで発展し、最終的には支払いを留めていた残金を業者に支払わないという判決が下されました。

しかし実際には、断熱材のやり直しだけでなく、壁・天井・屋根にも同様の施工不良があり、家を一度壊すレベルの大工事が必要でした。

結局、支払わずに済んだ分の金額で全てを直すことはできず「寒いのは我慢する。暖房を多く使って暮らす」と決断。部分的な補修のみで済ませることになりました。実際、冬になると床下から冷気がスースー入り込み「あの裁判を思い出す」と話していたのが印象的でした。

種類間違いや、うっかりミスも。まだまだある断熱材のトラブル

最後に、施工業者のミスによる事例を二つ紹介します。

まず最初は、床下断熱の施工ミスです。 「床が冷えるから見てほしい」という依頼で調査に入ったところ、断熱材の表裏と上下が逆につけられていました。しかも、そもそも床に使うべきではない柔らかい断熱材が使われていました。

通常、床断熱にはある程度の硬さを持つ板状のグラスウールや発泡系の断熱材を使用します。しかしこの家で使われていたのは、ワタのように柔らかい繊維状のガラスウール。この素材は壁や天井など「垂れ下がらない場所」で使うことを前提としたものです。柔らかいため、下方向に使うと自重で垂れ下がり、断熱材と床との間に隙間が生じます。

断熱の原理は「空気を動かさないこと」です。繊維の間に閉じ込めた空気の層が断熱の役割を果たすのですが、押し込んでしまうと空気層がなくなり、かえって性能が落ちてしまいます。つまり、施工の向きも材質の選定も間違っていたわけです。

こちらは、完全な解体を避けるため、床を巾木(はばき)のギリギリまでカットして、ボード状の断熱材を床の下地に組み込み、床を張り替えるリノベーションを行いました。幸いこの方法で、床下に潜らずとも断熱性能を確保することができました。

このように、材料の選定ミスや施工方向の間違いなど、ちょっとした知識不足が住環境に大きな影響を与えることがあります。

特に断熱は目に見えない部分だけに「正しく入っているか」「向きが合っているか」をチェックするのは専門家でなければ難しい。リフォームやリノベを検討する際は、施工前に必ず第三者による確認を入れておくことが大切です。

家の品質を高め、正しくメンテナンスを行い、長く快適に住もう

今は家の価格が高騰し「新築は無理でも、フルリノベして新築同然に住もう」という人が増えています。こうした状況の中で、住宅の品質向上に真剣に取り組む会社も増えています。

品質を高め、家を長持ちさせる。その流れが強まれば、現在は平均約30年といわれる日本の住宅寿命も、いずれ100年に近づくと思います。海外では、イギリスなら80年、アメリカでも70〜100年住み続ける家が多い。日本は仕上げの美しさにはこだわるけれど、日常的なメンテナンスやセルフケアはまだ文化として根付いていません。

けれども、DIYが好きな人や、少しずつ自分で手を加えて住まいを育てる人が増えれば、家の寿命は確実に伸びます。壁のひびを埋めるシーリング材や、画鋲の穴を補修するパテなども、実は誰でも簡単に使えるものです。

「自分で直す」「正しくメンテナンスする」という文化が広がっていけば、日本の家ももっと長持ちする。リノベーションも、メンテナンスも、そして第三者の監査も、すべては「家を長く、安心して住み続ける」ための仕組みなんですね。