中古住宅を見学したとき、あなたはまずどこを見ますか。
間取り、日当たり、壁紙の状態などどれも大切ですが、それだけで家の本当の価値は判断できません。
実は、品質を見極めるうえでもっとも重要なポイントは床下と屋根裏。普段は目にすることのないこの2ヶ所には、住宅の骨組みである構造躯体そのものの施工品質が色濃く表れます。家の寿命や耐震性を左右する「決定的な差」は、こうした見えない場所にこそ潜んでいたりするのです。
金物が足りない、取り付け方が間違っている、構造材の組み方が不十分といった構造躯体に関わる重大な施工不備は、壁や床の内側に隠れてしまうため、完成後は簡単に見抜けません。
しかし床下や屋根裏を確認すれば、その住宅がどれだけ丁寧につくられたのかを判断する材料になります。
そこで本記事では、第三者監査・建物調査の専門家として数多くのリフォーム・リノベーション現場を見てきた山下に、実際に起きた構造躯体のトラブル事例をもとに、構造躯体の不備について聞きました。
肩書 山下 陽平
大学在学中から、教授の構造設計事務所で建築の経験を積む。卒業後も同事務所に勤務し、有名建築家と連携して多数の著名建築物の構造設計に従事。一級建築士資格の取得後、地元の不動産会社に勤務し、住宅の欠陥やトラブルに直面したことを機に独立。 第三者の立場で建物調査や鑑定を行う事務所を設立し、弁護士と協働して多くの裁判をサポート。その後、検査会社や監査基準策定に関わり、現在は「建築トラブルのない社会」を目指し、第三者監査に特化するネクストステージで活動中。
伝統工法だけでは守れない現代住宅の安全性
中古住宅の品質を判断するうえでもっとも重要なのは、床下と屋根裏を確認することです。この2カ所は、金物不足・施工不備・小屋組みの不備など「家の寿命を左右する本質的な欠陥」が集中して見つかる場所です。
もしここでひとつでも重大な施工不備が見つかった場合、その住宅は全体的に施工品質が低い可能性が極めて高く、逆に丁寧に施工されていれば安心できる材料になります。
木造住宅では、柱や梁をつなぐためにさまざまな「継手」と呼ばれる加工技術が用いられています。継手にはいくつも種類があり、たとえば

- 腰かけ鎌継ぎ:上下から木を加工して段差(腰掛け)をつくり、接合部の強度を高めます。
- 腰かけあり継ぎ:短めの継手で木材端部の接合に用いられます。
継手を組む際にはわずかな隙間を設け「込み栓」と呼ばれる木のくさびで固定する手法もあります。このように釘を使わず木材だけで固定する技術は、五重塔などの伝統建築にも用いられる日本独自の技術です。
しかし、木材は徐々に乾燥収縮するため隙間ができてしまい、強度が低下してしまいます。昔は調整技術を持つ職人が対応していましたが、現在はそういった職人も減り、羽子板ボルトや短冊金物などの構造部分の接合に使われる金物による補強が標準となっています。
金物が一般化する以前の住宅では、大工が金物への抵抗感から避ける場合もあり、本来必要な金物が取り付けられていないまま施工されている住宅も存在します。
特に中古住宅では、柱や梁の接合部に金物の不足、そもそも入っていないようなケースが珍しくありません。
「入っていない」「入っていても効いていない」現場で多発する金物不備の実例
それでは、実際に現場で見た事例をいくつかご紹介します。
まずご紹介するのは、現場で「あるある」の不備事例、金物がそもそも取り付けられていないケースです。写真のように鎌継ぎの伝統工法が施され、込み栓で固定されていますが、安全性を確保するためにも金物による補強が必須となります。
続いて「取り付けてはあるけれど、実はまったく効いていない」誤った金物施工のケースです。梁の引き抜き防止のために縦方向へ固定する必要があります。しかし斜めにつけてあり、これでは地震時に力を受けた際にビスの効果が弱くなり、金物自体が曲がってしまう危険があります。
このような場面では左の写真のような角金物を使い、正しい向きでしっかりと固定する必要があります。さらに問題なのが、右の写真のように柱と筋かいを固定するための金物が入っていないことです。構造的に非常に危険で建物の耐久性に直結します。
地震で抜ける危険性!見逃せない筋交いの致命的ミスとは
こちらの写真は、本来は柱へ取り付けるべき筋かいが、なぜか梁に固定され、さらに金物も入っていないという危険なケースです。
筋かいを梁に取り付けてはいけない最大の理由は、地震などで筋かいに「上へ押し上げる力」が働いた際に、梁そのものが柱から抜けてしまう可能性があるからです。つまり、建物の骨組みが崩壊するリスクがあるということになります。
筋かいは、必ず柱と直接つながるように施工することが鉄則。「筋かいプレート」と呼ばれる専用の金物を用いて、しっかりと固定する必要があります。
さらに意外と見落とされがちなポイントが、ボルトやビスの緩み。金物が使われていても、肝心のボルトが緩んでいたり、ビスがただ刺さっているだけでは意味がありません。
安全な構造は「正しい場所に」「正しい金物を」「正しい方法で取り付ける」ことで初めて成り立ちます。必要な補強がひとつ欠けるだけで、住宅の安全性は大きく揺らぎます。
こうした細部のチェックこそが、建物の寿命を左右するのです。
瓦が落ちる家、落ちない家。小屋組みの決定的な違いとは?
続いて、屋根を支えるもっとも重要な構造である小屋組みに関する事例です。問題となったのは、屋根の安定を左右する「斜め材」が不足していたケース。しかし、その背景を理解するために、小屋組みの役割を少しだけ説明します。
小屋組みとは、屋根を支える骨格であり、家でいえば「柱」に相当するほど重要な構造です。基本は上下とも差し込みで組み上げ「かすがい」と呼ばれる金物でしっかり固定します。
しかし、この状態だけでは横揺れに弱く、台風や地震の力を受けると構造が歪んでしまう可能性があります。
そこで欠かせないのが、斜めに配置する補強材です。これは小屋組み全体のねじれや揺れを抑える重要な役割を担います。ただ、この斜め材には明確な施工基準がなく、多くの場合で職人の経験や判断にゆだねられています。そのため、その重要さにもかかわらず、住宅ごとに強度にばらつきが生まれやすい箇所です。
実際、沖縄の住宅で「台風のたびに家がギギギ、、、ときしむ音がして眠れない」という相談を受け調査したところ、原因は斜め材の不足でした。また、地震で瓦が落ちた家と落ちなかった家の違いも、小屋組みの斜め材がきちんと入っているか、金物の施工が確実かといった点が大きく影響しています。
このように、屋根の中に隠れた1本の斜め材が家全体の安定性に驚くほど大きな役割を果たしているのです。
建物の沈下を「ごまかす」危険な応急処置が招くリスク
最後にご紹介するのは、建物の一部が沈下しているにもかかわらず、隙間に適当なものを挟んで高さをごまかしているという衝撃的なケースです。
写真を見ると、沈んだ部分の高さを合わせるために、まるで家具のガタつきを直すような感覚で物を詰め込んで補正しています。しかし当然ながら、こんな対処は絶対にやってはいけません。
建物の沈下は構造的な問題のサインであり、本来なら根本的な原因を調査し、適切な補強や調整を行うべき重大な箇所です。
それでも現場ではこうした「応急処置のつもりが重大な欠陥につながる」ケースが実際に行われていることがあります。見えない場所で行われた小さな誤りが、後々大きなトラブルにつながる。まさにその典型例と言えます。
1ヶ所見つかれば要注意!見えない施工品質は必ず連鎖する
金物は本来「どの種類を」「どこに」「どれだけ取り付けるか」を、すべて建物全体の力のかかり方を計算したうえで決定するものです。つまり、ただ金物が不足しているからと言って「とりあえず付ければいい」という単純な話ではありません。一度外して、正しい位置へ組み直す必要があります。
しかし残念ながら、今回ご紹介したような不備事例は珍しくありません。金物不足がひとつでも見つかった時点で、住宅全体の品質に問題がある可能性が非常に高いと考えるべきです。
また、壁の内部は外からは確認できないため、調査では床下や屋根裏の施工状態を手掛かりに、住宅全体の施工レベルを推測することができます。特に屋根裏は、重要な構造部材の未施工や取り付けミスが発見されやすいポイントです。
逆にいえば、床下や屋根裏が丁寧に施工されている住宅であれば、主要な構造部分も同じく丁寧に仕上げられている可能性が高いという、ひとつの安心材料にもなります。
見えない場所の施工品質は、住宅全体の信頼性を映し出す「鏡」と言っても過言ではありません。住まいの安全は、細部へのこだわりと正しい知識の積み重ねによって守られます。