前回の記事では「防水とは何か」「なぜ住宅において防水工事が重要なのか」という、家づくりの根幹とも言える考え方について解説しました。
防水施工は完成した家を見ただけではその良し悪しは判断できず、住み始めてから不備が判明しやすい箇所でもあります。
その多くは設計や材料の問題ではなく、防水工事のちょっとした施工不備が原因です。
本記事ではそうした現場を数多く見てきた山下の経験をもとに、新築工事の中で特に起こりやすい防水工事の施工不備の事例を紹介していきます。
専門的で難しい話ではありますが「どこで」「何が」「なぜ起こりやすいのか」を知っておくだけでも、家づくりの見方は大きく変わります。ご自身の家づくりに当てはめながら「ここは大丈夫だろうか?」と一緒に確認してみてください。
なお防水工事の基本的な考え方については、前回の記事で詳しく解説しています。まだご覧になっていない方は、あわせてこちらも参考にしてみてください。
▶ 防水工事の概念について解説した記事はこちら
肩書 山下 陽平
有名建築家の案件に携わった構造設計の経験に加え、建築トラブルや裁判対応を数多く支えてきた建築の専門家。現在は監査基準の策定にも関わりながら、第三者の立場で建物調査・監査を行い、「建築トラブルのない社会」の実現に取り組んでいる。
まずは理解しておきたい「防水施工の確認手法」
前回の記事では防水の基本的な考え方について解説しました。今回はその続きとして、実際の新築現場で起こった「防水施工における不備事例」を解説していきたいと思います。
ただ、その前にぜひお伝えしておきたい大切なことがあります。
それは、防水施工の多くが屋根や足場に上らなければ確認できない位置で行われているという点です。だからといって、ご自身で屋根や足場に上って確認することは決しておすすめできません。
思わぬ転落事故による怪我のリスクがあるだけでなく、防水材を傷つけるまたは破ってしまい、かえって不具合の原因になってしまう可能性もあるからです。
本記事では防水施工の不備事例を紹介していきますが、実際にご自身で確認を行う場合は、以下の点を必ず守ってください。
- 目視で確認する場合は地上から確認できる範囲に限ること
具体的には、1階部分など無理のない位置の確認にとどめましょう。 - 2階以上や屋根部分については現場監督や大工さんに複数枚の写真を撮ってもらい、その写真で確認すること
安全を確保したうえで確認することが後悔のない家づくりにつながります。この点だけはぜひ覚えておいてください。
ではさっそくよくある不備事例について解説していきましょう。
不備事例①指摘率最多!?屋根ルーフィングの重ね不足
防水は大きく屋根と壁に分けられますが、まずは屋根防水について解説します。
屋根防水では「屋根ルーフィング」と呼ばれる防水シートを使用します。これは屋根材の下に敷かれ、屋根材だけでは防ぎきれない雨水の侵入を防ぐためのものです。屋根仕上げ材が一次防水、ルーフィングが二次防水という二重構造になっています。
屋根ルーフィングに関する不備事例で多く見られるのが「棟(むね)」部分の防水施工です。
棟とは屋根の一番高い部分のことです。この棟部分では、ルーフィングの「重ね方」に瑕疵保険の施工基準やメーカーの施工要領で定められたルールがあり、棟を中心に左右それぞれ250mm(25cm)以上折り返す必要があります。
ところが現場を見てみると、この折り返しが片側しか無かったり、そもそも折り返していなかったり…というケースが非常に多い。今回のこの現場も13cmほどしかなく、定められた基準を満たさない、不適切な施工だということになります。
どうしてこのような事が起きてしまうかというと、ルーフィングは1枚で屋根全体を覆うのではなく、幅1mほどのシートを下から順に重ねながら施工していきます。
この際最後に余った部分をそのまま棟で折り曲げて処理してしまうと、必要な折り返し幅が確保できず、今回のような不備につながります。
一方経験豊富な職人さんは、途中の重ね代を調整しながら施工し、棟部分で十分な折り返し幅が取れるように張っていきます。
この違いが品質差としてはっきり表れるポイントです。
不備事例②縦にも横にも要注意!ルーフィングの「重ね幅」
先ほど説明したルーフィングの重ね幅も、指摘が多いポイントのひとつです。ここでいう重ね幅とは、屋根勾配に沿った縦方向(上下方向)の重ねを指します。
ルーフィング材の端部には、重ね幅用のラインが入っています。10cmの位置にラインがあって「これより内側まで隠れていれば10cm以上重なっていますよ」という目安になります。
しかし現場ではこのラインが見えたままになっていることがあります。これは重ね幅が不足している状態です。
重ね幅が足りないと、屋根材の下に水が回った際に二次防水として本来の性能を発揮できなくなる原因となります。
また、縦方向(上下方向)の重ねだけではなく、横方向(左右方向)の重ねにも注意する必要があります。
ルーフィングは下から順に張っていく帯状の材料のため、屋根形状によっては途中で材料をつなぐ必要があります。このときに生じるのが、横方向の重ねです。
この横重ねには基準があり、20cm以上重ねることが求められています。なぜなら継ぎ目部分の重ね幅が不足していると、台風時などにそこから水が回り込むリスクが高まるからです。
実際の現場では、重ね幅が基準ギリギリだったり、継ぎ目位置がずれて必要な重ね幅が確保できていないケースも少なくありません。
企業によっては、こうしたリスクを見越して自社基準で「余裕を持たせる」運用をしているところもあります。例えば本来20cm以上あれば基準は満たしているところを、あえて40cm重ねるようにして雨水の侵入防止につなげる、といった取り組みですね。
地道な作業ですが、こういった小さな積み重ねがとても重要なんです。ひとつひとつが正しくできているかどうかで、家の寿命やトラブルの有無が大きく変わってきます。
不備事例③屋根ルーフィングの「破れ」にも要注意
こちらの写真は、屋根下地である野地板の釘が飛び出した部分のルーフィングが破れてしまったケースです。
本来、野地板の釘がしっかり打ち込まれていれば、このような破れは起こりません。
万が一ルーフィングに破れが生じた場合、その補修方法は企業によって判断が分かれますが、破れを放置することは絶対にNGです。
なぜならルーフィングは屋根材の下で雨水を止める「二次防水」の役割を担っているからです。ここに穴や破れがあると、屋根材の隙間から侵入した雨や雪が内部に回り、雨漏りの原因になります。
こうした破れを見つけたら必ず修繕してもらい、問題を解決した状態で次の工程に進めることがとても大切です。
不備事例④一見きれいでも要注意!三面交点の落とし穴
続いて、屋根と壁が立体的に交わる「三面交点(さんめんこうてん)」におけるポイントです。
ここには、①1階の屋根面、②立ち上がる外壁面、③直交する外壁面の3つの面が関わります。
三面交点が難しいのは防水シートを立体的に折り重ねる必要がある点です。
平面と違い、どこかで切れ目を入れなければシートが納まらず、その切れ目は現場で「ピンホール」と呼ばれる水が入り込みやすいスキマになりがちです。
このピンホールが残ったままだと、雨水が回り込むように侵入し、室内側へ漏れるリスクが一気に高まります。
そのため三面交点では、防水テープでシートの切れ目を確実に塞ぐ施工が非常に重要になります。
不備事例⑤「透湿防水シート」の「破れ」と「重ね不足」
ここまでは屋根防水について解説していきましたが、ここからは外壁面の防水についてです。
外壁防水の施工では「透湿防水シート」を使用します。このシートには、室内の湿気を外へ逃がす役割と、外壁から侵入した雨水を室内に入れない役割の2つの重要な機能があります。
現場でよく見られる透湿防水シートの不備は「破れ」です。
家づくりの現場ではさまざまな工具が使われ、多くの業者が出入りします。その過程で資材や工具が引っ掛かり、防水シートが破れてしまうことがあります。
防水シートはわずかな破れでも本来の性能を十分に発揮できなくなります。今回の写真は分かりやすい破れですが、目立たない小さな破れも見逃してはいけません。
また壁防水では、透湿防水シートの「上下の重ねは9cm以上」「繋ぎ目の重ねは15cm以上」が基本ルールになります。
これは、屋根は平面に近く水が広がる可能性が高いのに対し、外壁面は垂直なので平面の屋根よりは水が広がりにくいと考えられるためです。そのため屋根よりも重ね幅が小さい基準が設けられています。
防水シートにも重ね幅の目印になるようラインが引かれています。そのラインに沿った重ねを守っていれば施工ミスは起こりづらくなります。
では、具体的な施工不備の事例も見ていきましょう。
不備事例⑥サッシ周りは要注意!防水シートの端部処理とつなぎ目
この写真の施工状態は、サッシの横に防水シートの端部が見えている状態です。
本来であれば防水シートはサッシ枠に合わせてきれいに切り取りますが、この不備では余った部分を破ったような処理がされています。恐らくカッターの替え刃をせず、切りにくかったことが考えられます。
このような状態は毛細管現象が起こりやすく、非常に注意が必要です。
正しく端部処理がされていれば、万が一サッシ廻りから雨水が侵入した場合でも、防水シートが水を受け止め、外へ流す役割を果たします。
しかし、この施工では、防水シートとサッシのすき間から水が入り込み、内部へと回り込んでしまいます。
また、この写真のようにサッシの上に防水シートのつなぎ目がくる施工も本来は避けた方が良い施工です。
つなぎ目から侵入した水がサッシに当たると、下へ流れることができず内部側へ引き込まれてしまう原因になります。本来、窓枠の上部は大きな1枚の防水シートで施工すべき箇所です。
不備事例⑦配管周りで要確認「角出し」「圧着不足」「勾配」
左の不備写真のように、防水テープの処理時にテープの端部が外に出てしまっている状態を「角出し(つのだし)」と呼びます。
角出しがあると、防水テープで止水処理をしていても端部から水が侵入する原因になります。そのため防水テープは端部がはみ出ないよう、きれいに納めることが正しい施工方法です。
また防水テープによる止水処理では圧着の強さも非常に重要です。手で押さえただけの場合と、ローラーなどを使ってしっかり圧着した場合とでは防水性能に大きな差が出ます。
次に配管の勾配についてですが、この写真を見ると、水平器の気泡が左側に寄っているのが分かると思います。これは、配管が室内側に傾いた「内勾配」になっている状態を示しています。
本来、外側に向かってわずかに傾ける必要があります。室内側に傾いてしまうと、配管内に水が溜まり、そこから構造内部へ水が侵入する可能性があるためです。
水平器はホームセンターなどで手頃な価格で購入できます。配管の確認だけでなく、竣工検査などでも使えるため、1つ持っておくと安心です。
水は想像以上に回り込む、狭いところが大好きな厄介者
防水工事について現場目線で見てきましたが、私たちが何度も痛感してきたのは「水は想像以上に回り込み、想像以上に入りたがる」ということです。
だからこそ防水は「良い材料を使っているか」だけでなく、重ね幅の確保、テープ処理の丁寧さ、立体部分での納まりなど、一見すると些細に見える施工の積み重ねによって、防水の「性能差」「耐久性の差」が生まれます。
完成してしまえば見えなくなる部分なので、後からやり直すことは簡単ではありません。
だからこそ工事中・検査のタイミングで「正しく施工されているか」を知る視点を持つことが、後悔しない家づくりにつながります。
今後も現場で実際によく見かける施工不備をもとに解説していきます。ぜひ引き続きチェックしてみてください。