家づくりを考え始めたとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「完成した理想のマイホームの姿」ではないでしょうか。モデルハウスを見学したり、カタログを眺めたりしながら、これからの暮らしを想像する時間は、家づくりの中でも楽しみのひとつです。

しかしその一方で「その家がどのように造られていくのか」というプロセスについて考える機会は、おそらく少ないと思います。

住宅というものは、長い期間をかけて現場での一つひとつの作業工程が積み重なって完成します。その節目節目での細かな施工精度や判断が、実は、住み始めてから実感できる、本当の答え合わせになっていくのです。

とはいえ、当然、住宅の完成後には、建築中の細かな作業はすでに見ることができませんし、また、お施主さまご自身がすべての過程を専門的視点で確認することも非現実的です。

Housing journeyを運営するNEXT STAGEは、そうした「住宅を建築している過程」に目を向け、20年間で約40万工程に及ぶ、全国の住宅施工の過程を見守ってきました。第三者の立場から現場を評価し、ただ指摘をするだけでなく、再発防止につなげるために技術者たちを教育していく。そんな業界改革への取り組みの根底には「お施主さまが、長く安心して住んでいただける家を届けたい」という、シンプルな想いがあります。

今回は、NEXT STAGE代表の小村に、住宅品質と向き合い続けてきた理由や、これからの家づくりを考える上で、是非知っておいてほしい視点について話を聞きました。

<取材協力>(株)NEXT STAGE 代表取締役社長 小村 直克

完成した家だけでは見えない、家づくりの過程にある「違和感」

──まずは、小村社長の経歴について教えてください。

社会に出て、初めての就職先が大手ハウスメーカーでした。当時はバブル崩壊前の景気の良い時期でしたので、ひっきりなしに住宅が売れる、そんな時代でしたね。その後は建築資材を扱う総合商社に転職し、37歳でこの会社を創業して今に至ります。

──NEXT STAGEを創業するきっかけは何だったのでしょうか。

一番大きかったのは、お施主さまが想い描いていた住宅と、実際に出来上がる住宅との間に引き起こる様々なギャップでした。

お施主さまは、やはり仕上がりを重視して判断する方が多いので、仕上がりさえ綺麗であれば、何となくすべてがちゃんとできていると判断しがちです。しかし実際は、家が仕上がるまでの一連の工事があまりにも杜撰(ずさん)で「これを知ったお施主さまは本当に気の毒だな」と、ずっと業界への違和感を持っていました。

これから情報化社会が進むにつれて、きっとお施主さまの知識が増え、要求レベルも高くなっていく。その一方で、現場では職人や後継者が減り、体制づくりが厳しくなっていく。そんな仮説から「このギャップを早く解消したい」という信念が生まれ、会社を設立しました。

なぜ、家づくりの品質に差が生まれてしまうのか?

──家づくりにおける現場の在り方は、時代とともに変化しているのでしょうか?

そうですね。かつての住宅建築は、大工の棟梁が中心となって現場全体をマネジメントし、家づくりを進めていました。材料や費用面の管理、そして業者の手配までを担い、職人として品質を守る総責任者としての役割を果たしてきたのです。

しかし現在では、住宅会社が元請けとなり、大工などの職人の下請け化が進んでいます。棟梁が現場全体を管理するというこれまでの慣習が、住宅会社の工事部門がそのマネジメントを引き受ける形態に変化しているのです。つまり、住宅会社の工事部門の施工管理体系や現場監督のスキルによって、品質に差が出やすくなってきています。

夢のマイホームに対するお施主さまの期待と、実際に現場で行われていること。そのあいだに生まれるズレが、少しずつ広がっていくように感じます。

──会社を始めた当初は、どのようなところに一番力を入れていたのでしょうか。

当初は、とにかく「お施主さまを守ること」でした。

具体的には、住宅の検査事業からスタートし、家づくりでお施主さまが不利益を被らないようにしていきました。それが、お施主さまを守るための最善の方法だと思っていたのです。

ただ、どうしても問題が起きてから検査機関に依頼するケースが多くなってしまいました。すると、できることは住宅会社への金銭面の解決や応急処置的な「対処」に限られてしまう。そして別の場所で、また別のお施主さまが同じような被害を受けてしまう。そう思ったんです。

問題が起きてから対処するのではなく、そもそも日本中の住宅で、こうしたトラブルが起きにくい状態をつくらなければ意味がない。そのためには、個人を守るという視点だけでなく、住宅業界そのものを変える必要があると考えるようになりました。

住宅産業の全体を建設的に改善し、品質が安定する仕組みをつくることができれば、結果的にお施主さまも守られる。そう考えるようになったんです。

「守る」だけでは足りなかった——検査から監査への転換

──NEXT STAGEが提供している「ヒンシツ監査」では、家づくりの品質検査を「監査」と表現していますが、なぜ「検査」から「監査」という発想に転換したのですか?

はい。もともと行っていた検査事業では、全国一律の検査項目で現場を見ていくことに、次第に違和感を覚えるようになりました。

日本は地域によって気候が違いますし、建てる工法や使われる資材もさまざまです。それなのに、すべて同じ項目内容で検査することには、どうしても限界がありました。これをいかに個別に対応していけるか? そして品質向上にどうやってつなげていくのか? を考え続ける中で、現在の「監査」という仕組みが生まれました。

──NEXT STAGEの「監査」では、住宅会社ごとに監査基準をカスタマイズしている点が特徴的ですよね。

住宅会社によって、工法や仕様はそれぞれ違います。またそれ以上に、目指したい品質のレベルも「法律を最低限満たしている」なのか「できる限りの最高品質」なのか、基準も異なります。それなら、その会社の仕様に合わせた施工基準をつくり、それをもとに確認を行うべきだと考えました。これは、単なる「検査」ではないと思ったんです。

特に木造建築は、法律で「どうつくるか」「どう判断するか」まで細かく決められていることはほとんどありません。そのため、技術的な判断や対応は、個々の経験に委ねられやすく、検査の場面でも抽象的な視点での判断にとどまっていました。

だからこそ、これまで曖昧だったグレーゾーンの部分を具体的な基準として明確にし、その基準に適合しているか否かという定量的な評価を「監査」と位置づけ、全国へと広げてきました。

本当に大事なところを見逃さないための監査タイミング

──NEXT STAGEの監査では、全部で10回のチェックタイミングを設けていますが、その監査のタイミングはどのように決めたのでしょうか。

本音を言えば、30回でも40回でもチェックできたほうが、より安心ですよね。

ただ、外部の認定現場監査士がそこまで頻繁に現場に入るのは、現実的ではありません。そこで考えたのが「どこを押さえれば、品質を守れるのか」という視点でした。それが、工事と工事が切り替わる、以下の10回のタイミングです。

※NEXT STAGEのヒンシツ監査の10のチェックポイント

この切り替わりの際には、施工不備が集中して起きやすい傾向があります。さらには、一度工程が進んでしまうと、あとから二度と確認できなくなるタイミングでもあります。だからこそ、そこにマイルストーンを置き、後戻りできないタイミングを確実に押さえる。無駄を増やさず、集中した本質的な監査を行う。その考え方の結果が、いまの「10回の監査タイミング」なんです。

人が行う作業である限り必ず失敗はつきものですので、万一不備が見つかったとしても、容易に手直しして前に進めることができる。ということが、実は品質向上に一番重要なことです。

──実際に現場監査を重ねるなかで、見えてきた課題もあったのではないでしょうか。

ありましたね。やはり監査をして、しっかりと報告書を出す。それ自体にはちゃんと意味がありますし、お施主さまにとってはすごく安心な材料にもなります。

でも、それで終わってしまうと、住宅会社として成長が止まってしまうんです。例えば、現場監督さんや職人さんだって入れ替わっていくわけです。経験した人材だけでいつも仕事が回るわけではないので、いかにその取り組みを再発防止に向けて循環させていくかが大切だったんです。

そこで改めて立ち返ったのが、ものづくりの現場で広く使われている「PDCAサイクル」という考え方でした。

──計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)ですね。

その通りです。監査は「チェック」で終わりではありません。

どんな設計図書に対して、どのような施工がなされ、そして、どこにどんな課題がどれくらい発生し、どのように改善していくのか。そこまでを一連で回していくことが、大切だと考えました。

──PDCAを回していくうえで、特に強化したかったのはどの部分だったのでしょうか。

一番重要なのは「改善」の部分ですね。

問題が起きたあと、対処で終わってしまうケースが多かったからこそ、そこから一歩進み、同じことを繰り返さないためには、感覚や印象だけでなく「何が起きているのか」を客観的に見られる分析データが必要だと感じたのです。

──どのような変化がありましたか。

監査で得られた情報を蓄積し、分析できるようにすることで「たくさんミスがあった!」などの抽象的な事象ではなく「どの工程で、どのような間違いが●●%発生していたのか」や「どの職人さんが、どこでどんなミスを、どれくらいしているのか」などが具体的に見えるようになりました。

闇雲に全部を直そうとするのではなく、影響の大きいポイントに絞って一歩ずつ改善できる。データに基づいた具体的な指導や改善提案ができるようになったことで、現場の品質改善のスピードも、対処型から改善型に大きく変化してきました。

完成した家ではなく「つくる過程」を見るという選択

──情報があふれる今、消費者は何を信じて住宅会社を選べばいいと思いますか。

立地や予算、間取り、性能など、何を優先するかは人それぞれだと思いますし、どれも大切な判断軸です。

ただ「そもそも家がちゃんと建つのか」という話が、営業の場で積極的に語られることはほとんどありません。消費者側も「家が建たないかもしれない」というリスクを、最初から強く意識することは少ないのが現実だと思います。

──完成した家ではなく「つくる過程」に目を向ける必要があるということですね。

そうですね。よく自動車に例えるのですが、私たちは車を選ぶとき、デザインや性能は当然意識しますよね。でも、自動車が工場でどのようにつくられているのかまでは、きっと気にすることはないと思います。

家づくりも似ていて、完成した家の見た目や設備には目が向きやすい。一方で「どんな手順で、どうやって建てられているか」というプロセスは自動車と同様、気にならないことが多いと思います。ただ、家は自動車と違って工場でつくるものではなく、すべて人がつくる現場施工なので、そのプロセス次第で、建つ住宅の品質は大きく変わってきます。

──建築基準法など、しっかりルールは守られているはずでは?

もちろん、最低限のルールとして建築基準法があります。ただ、問題になるのは「最低限の基準を守っているかどうか」ではなく、見えない部分までちゃんとつくられているか、です。正しい手順通りに、確実に施工されているか、また見えない部分まで丁寧に仕上がっているか。そこが曖昧なままだと、後になって不具合が見つかる確率が一気に上がってきます。

完成した直後には分かりませんし、それひとつで家が倒壊するわけではありません。ただ、本来打たれるはずの釘が実は打たれていなかったり、きっちり入っているはずの断熱材がきっちり納まっていなかったりすることは、やはり気持ちのいいものではないですよね。

見えない部分や、つくるプロセスに目を向けること。それが、家づくりで後悔しないための、大切な視点だと思います。

建てたあとも、安心が残り続ける家のために

──NEXT STAGEの監査が入った住宅には、建てたあとのメリットもありますか。

将来、その家が中古市場に出たとき、セカンドオーナーの方が安心して購入できる、というのは大きなメリットだと思います。

建築中にどんな施工が行われ、どんな状態で引き渡されたのか。そうした「建てたときの記録」が残っている家と、そうでない家とでは、安心感も評価も大きく変わります。

構造部分や防水といった見えない部分が、あとからでも確認できる形で残っている。それは、将来リフォームをする際にも役立ちますし、建築履歴がきちんと残っているというだけで、大きな安心につながると思います。

──そうした考え方を踏まえて、NEXT STAGEは施主にとってどんな存在でありたいと考えていますか。

理想は「NEXT STAGEにヒンシツ監査を頼むのが業界の当たり前」というスタンダードになることです。

たとえば大手セキュリティー会社のように「NEXT STAGEの監査が入っていれば安心だよね」と自然に思ってもらえる存在を目指しています。

「暮らす」という分野そのものは、これからも絶対になくなりません。だからこそ、住宅を建てるときだけでなく、リフォームや住み替え、購入の場面でも「何かあったらNEXT STAGEに相談しよう」と思い出してもらえる存在でありたい。そのために、これからも真摯に取り組んでいきたいと考えています。

──本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。

「ちゃんと建つ」を考えるきっかけに

家づくりは、完成した瞬間がゴールではありません。住み続ける時間の中で、どれだけ安心できるか。そして、もし将来その家を手放すことになったとしても「ちゃんとつくられた家だった」と胸を張れるかどうか。家づくりは多くの人にとって、一生に一回という大きなイベントです。そして残るものは「建ってしまった建物」と「組んでしまった住宅ローン」という現実です。

見た目や設備だけでは分からない「つくる過程」に目を向けることは、少し手間がかかるかもしれません。けれど、その積み重ねこそが、住まいの安心や価値を長く支えていくのです。

Housing journeyでは、こうした見えにくい部分にも光を当てながら、家づくりを考える人が、自分たちなりに納得のいく選択ができるよう、これからも情報を届けていきます。