「リフォームは、新築より気軽」

そんなイメージを持っている方は、少なくないかもしれません。

ですが、実はリフォーム・リノベーション工事ほど「事前に知っておくべき前提」が多い工事はないということをご存知でしょうか。

住宅が築30年、40年と時間を重ねていくなかで、住宅に関する法律や基準は変化していきます。また、使われている材料や工法そのものも現在のスタンダードとは異なります。その違いを理解しないまま工事を進めてしまうと「見た目はきれいにはなったけれど、問題は残ったまま」。そんな結果になってしまうケースも、決して珍しくありません。

さらにリフォーム工事は、制度的にも間口が広く、誰が・どこまで・どんな責任をもって工事をしているのかが見えにくい分野でもあります。

だからこそ、施主側が「知らなかった」では済まされない場面が出てきてしまうのです。
そこで本記事では、第三者監査・建物調査の専門家として、数多くのリフォーム・リノベーション現場を見てきた山下の経験をもとに、工事を進める前に知っておきたい「心構え」について話を聞きました。

今回紹介する内容は、決して不安を煽るためのものではありません。むしろ、後悔しない選択をするために「最初に知っておいてほしい現実」を、現場目線でお伝えしていきます。

肩書 山下 陽平
大学在学中から、教授の構造設計事務所で建築の経験を積む。卒業後も同事務所に勤務し、有名建築家と連携して多数の著名建築物の構造設計に従事。一級建築士資格の取得後、地元の不動産会社に勤務し、住宅の欠陥やトラブルに直面したことを機に独立。 第三者の立場で建物調査や鑑定を行う事務所を設立し、弁護士と協働して多くの裁判をサポート。その後、検査会社や監査基準策定に関わり、現在は「建築トラブルのない社会」を目指し、第三者監査に特化するネクストステージで活動中。

リフォーム・リノベーションは「家の寿命に向き合う工事」

正直に言うと、リフォーム工事は簡単なものではありません。これは、最初にきちんと伝えておきたいところです。

多くの人が、リフォームやリノベーションと聞くと「古くなったところをきれいにする」「今の暮らしに合うように直す」そんなイメージを思い浮かべると思います。もちろん、それも間違いではありません。

まず前提として、リフォーム工事には大きく分けて2つあります。
ひとつは、築10年〜20年くらいで行う、いわゆる表面的なリフォームです。

  • クロスの張り替え
  • 設備の入れ替え
  • 子どもが落書きした壁を直す
  • ペットが傷つけた床を補修する

といったものです。これは、暮らしの変化に合わせた「メンテナンス」に近い工事です。

もうひとつは、築30年、40年、場合によっては50年を超える住宅で行うスケルトンリノベーションや大規模なリフォーム。これはもう、家の寿命を延ばすための工事だと考えた方がいいです。

要するに「これから先も、この家に住み続けるためにどうするか」という視点で向き合う工事なんです。

リフォーム・リノベーションで一番やってはいけないのは「瑕疵」を残すこと

今が2025年だとすると、30年前は1995年、40年前なら1985年。もう、完全に別の時代です。法律も基準も違えば、使われている材料も、住宅に対する考え方も違います。

当時は当時で、それが「普通」だったんです。ですが、今の基準で見てみると、そのままでは問題になる部分が、どうしても出てきます。

耐震・断熱・防水など、現在の住宅は、性能も強度も格段に向上しています。だからこそ、今の基準に合っていない部分が残っていると、そこに負荷やトラブルが集中しやすくなるんです。

リフォームやリノベーションで、私が「これは絶対にやってはいけない」と思っていることがあります。それは、今の時代では「瑕疵(かし)」にあたるものを、そのまま残して次に進んでしまうことです。

例えば、当時は問題にならなかった施工でも、今の基準で見ると「それはさすがにダメでしょう」という状態のもの。それを「見えないから」「今回はそこまでやらなくていいか」と、そのまま残してしまうと、後々かなり高い確率で問題になります。

分かりやすい例が、断熱です。

たとえば、部屋の断熱性能を一気に上げたとします。壁の中に分厚い断熱材を入れて、窓も高性能なものに替えた。

でも「ここはちょっとだからいいや」「ここまでやるとお金がかかるから」と、手を付けなかった部分があったとしたら、そこに、結露が集中するんです。性能を上げたがゆえに、弱いところに負荷が集まる。

これは、現場では本当によく見かけるケースです。過去の瑕疵は「このリフォーム工事で一度きちんと清算する」くらいの気持ちで向き合わないといけないと、私は考えています。

リフォーム・リノベーションは、建設業許可がなくてもできてしまう

ここで、あまり知られていない制度の話をしておきたいと思います。

リフォーム工事は、実はものすごく間口が広い分野です。ハウスメーカーや工務店だけではなく、リフォーム専門会社、内装業者、設備業者、個人事業主と、さまざまな立場の人が関わります。

というのも、リフォーム工事は1件あたり500万円未満(税込)の工事であれば、建設業許可がなくても請け負うことができるんです。極端な話をすると、明日からでも「リフォーム会社」を名乗り、実際の工事を請け負えてしまう環境がある、ということです。

もちろん、これは違法ではありません。

でも「誰でもできる」ということと「誰に任せても安心か」は別の話です。実際、知識も技術もないまま工事を行い、必要性のない資材を大量に入れて高額請求する、柱を抜いてしまい2階が下がる、そんな悪質なケースも現実にあります。

ここで誤解してほしくないのは「建設業許可がない=悪い業者」という話ではないということです。もともとこの制度は、小規模な修繕や軽微な工事まで厳しく縛らないためのものです。

ただ、施工する側の知識や経験の差が、結果に大きく表れやすい。これが、リフォーム工事の怖さでもあり、難しさでもあります。

そしてこの前提を知っているかどうかで「誰に頼むか」「何を確認すべきか」という判断の精度は、大きく変わってきます。この事実は、リフォームを考えるうえで、ぜひ知っておいてほしいポイントです。

「想定外は、必ず起きる」だからこそしっかりしたい現地調査

リフォーム工事で「計画通りに全部収まる」ケースは正直それほど多くありません。だからこそ、事前の現地調査がとても重要になります。最低限ここは確認してほしいポイントがあります。
それが、

  • 断熱
  • 防水
  • 構造
  • 配管(給排水・配線)

の4つです。この主要ポイントを確認しておくことで、実際の工事での手戻りや、想定外の追加費用を抑えられる可能性が、ぐっと高まります。

ただし、どれだけ丁寧に事前調査を行っても、壁や床の中まですべてを確認できるわけではありません。解体して初めて分かることは、どうしても出てきます。
たとえば、

  • 金物が入っていなかった
  • 柱が腐っていた
  • シロアリの被害があった

といったケースです。こうした状況が判明すると、当初の計画を変更せざるを得ないこともあります。だからこそ、現地調査の精度とあわせて、余裕をもった資金計画を立てておくことが重要になります。

業者選びでは「価格よりも、姿勢を見る」

そして、業者選びで大切なのは、これまでに解説してきた内容や、価格だけではありません。なぜなら、はっきり言ってリフォーム・リノベーションは、新築よりも難しい工事だからです。

何もないところに建てる新築と違い、既存の建物を直しながらつくっていく分、現場ではより多くの判断力と技術が求められます。だからこそ、腕のいい職人ほど、リフォームの現場で呼ばれることが多い。それだけ難易度の高い工事なんです。

そして同時に、知らないまま始めると、後悔しやすい工事でもあります。

  • どんな工事なのか
  • どんな前提があるのか
  • どんなリスクがあるのか

これらを知ったうえで進めるかどうかで、結果は大きく変わります。まずはこの現実を知ること。それが、後悔しないリフォーム工事への第一歩だと思っています。

その上で、業者を選ぶ際にまず聞いてほしいのは「第三者チェックを入れることが可能かどうか」です。実際に入れるかどうかは別として、第三者のチェックを最初から拒否する会社は、私は選ばない方がいいと思っています。

次に「どのような方法で品質を確保していますか?」と聞いてみてください。
たとえば、

  • うちは職人が優秀だから大丈夫です
  • 今まで問題が起きたことはありません

こうした返答が返ってきた場合、正直に言うと、かなり注意が必要です。

大切なのは、自社でどんな品質管理体制を取っているのかを、具体的に説明できるかどうか。その説明がきちんとできる会社かどうかは、必ず確認してほしいポイントですね。

「合理的」に見える選択だからこそ、知ってから進んでほしい

中古住宅を購入し、自分たちの好みに直すことで、新築よりも予算を抑えられて、立地の選択肢も広がる。そう考えると、リフォームやリノベーションは、とても合理的で魅力的な選択肢です。実際、きちんと調査をして、適切な判断を重ねていけば暮らしを豊かにしてくれる選択にもなります。

ただ一方で、リフォーム工事は「見た目を整える工事」ではなく、家がこれまで抱えてきたものと向き合う工事でもあります。

築年数を重ねた住まいには、当時は問題にならなかった施工や、見えないところに隠れた劣化や不具合が残っていることも少なくありません。それを知らないまま進めてしまうと「こんなはずじゃなかった」「想定外の追加費用が出た」そんな後悔につながってしまうケースも、現実としてあります。

大切なのは、どういう工事なのかを知ったうえで、選ぶこと。その前提を持っているかどうかで、結果は大きく変わります。

次回から紹介するリフォーム工事に関する「防水」「構造」「断熱」の不備事例は、いずれも実際の現場で起きているものです。まずは、現実を知ること。そこから、自分たちにとって本当に納得できる選択を考えていく。そのための一歩として、この記事が役立てば幸いです。