以前から住宅建築業界の慣習として、「新築着工数」というマクロ的動向を捉えながら、自社の事業に対して「今年は、新築が売れなくなるぞ」と、こぞって声を上げる傾向があります。
当然、全国統計ですので「新築市場が縮小傾向にある」というトレンドは読み取れるのですが、あくまで全国統計としての平均値でしかなく、例えば首都圏を中心とした人口密集地での極端な着工推移が、全国平均値を大きく左右させたりもします。
逆に、着工減少が顕著にみられる人口減少率の高い地方都市であっても、そのエリアで事業をするすべての住宅会社が業績を落とし、肩を並べて落胆しているわけでもありません。そのエリアで充分に自社の強みを発揮し、元気に事業推進されている会社も少なくないのです。
では、具体的な新築着工数のデータを振り返ってみましょう。国土交通省の発表によると、2025年度(令和7年度)の新設住宅着工戸数は71万1,171戸となり、前年度比12.9%減。リーマンショック後の2009年度を下回り、1963年度以来62年ぶりの低水準となりました。
利用関係別の内訳をみると、皆さんの事業に最も関連性の高い持家は19万5,111戸で前年度比12.6%減、分譲一戸建住宅は11万5,200戸で同5.9%減、貸家は30万8,906戸で同13.5%減となっています。
このような低迷の要因は、建築基準法改正に伴う建築確認の混乱と長期化をはじめ、年々上昇する建築費や建築資材の高騰による住宅価格の上昇、さらには常態化している担い手不足などが複合したことによるもので、皆さんも日々の実務で改めて実感されているかと思います。
ここで皆さんに熟考していただきたいことは、これらの統計数値はあくまで全国の合計値であり、皆さんの会社の数字ではないということです。
当社も現在1,000社以上のクライアント様とお取引をさせていただいておりますが、このようなトレンドに比例して自社の実績を落とされているかというと、実はそうではない会社も多く存在します。
ただ、すべての会社に共通して言えることがあります。外部環境が大きく変化しても耐えきれる組織づくりや、守りだけでない計画的な攻めの成長戦略など、一過性でない明確なビジョンや推進力、そして組織力を常に時代に備えて鍛えていたか否か。これが企業継続の勝敗要因になっていると感じています。
私はこの業界を35年以上見てきました。平成のバブル崩壊、リーマンショック、消費税増税など、あらゆる局面において、必ず生き残る会社と消えていく会社を見てきました。私なりに、3つの時代の局面での教訓をお伝えしたいと思います。
平成バブル期は、住宅金融公庫の最低金利が5.5%という高金利時代でした。それでも売り手市場でしたので、建てれば売れる、展示場で待っていれば顧客が来るという、今では考えられない時代です。
しかしながら、このようなトレンドに甘んじた多くの不動産流通会社は、バブル崩壊後、仕入れ値以上に地価が急落し、ほとんどが消滅していきました。参入障壁の低い、誰でもできる仲介や建売事業に、トレンドを信じて投資し続けた結末であったと言えるでしょう。
他社が真似できないサービスの強み、顧客に耳を傾ける姿勢、リピーターと言われるファンづくり。こうした「独自性と顧客志向」を探求し、鍛えておかなかったことが、何よりこの時代の敗因だったと整理しています。
また、リーマンショック時は、バブルとは全く逆の現象でした。消費者の購買マインドは活性化せず、企業の多くが投資を控え、当時の新卒社員たちは本当に就職先がなかったくらい、人材投資にも目を向けないほど保守的な時代でした。
とにかく「今」という近距離の経営思考が根付いてしまい、ショックを乗り切った先には、新たな時代に向かっていくための開発力や組織力、そして推進力というリソースが備わっておらず、結局、次の一手を打つエネルギーがないまま事業を断念せざるを得なかったという印象です。
この時代の教訓は、バブルから引き継いだ過去の成功にこだわってしまったこと、新しいことへのスピード感が落ちたこと、そして変化を歓迎する社内文化を創り上げなかったこと。つまり「変化への対応力」の欠如が、この時代の敗因であったと思います。
そして、消費税増税時と現在の原価高騰時には、非常に似通った共通点があります。税金や製造原価が上がることで、お客様に商品が売りにくくなる。つまり、受注量への不安が、価格転嫁できないという課題へと姿を変えたのです。
どうやって安く売り、競合に勝つのか。どうやって安く仕入れ、粗利を確保するのか。こうした「質より量」の経営思考が、最近の業界体質に見え隠れしています。
外部環境的にも、その課題に付け込んだコストダウンコンサル支援や業務効率化のためのDXなども後を絶ちません。今の時代の敗因は、一言でいえば「強固な財務基盤が作れていない」ことに尽きると思っています。
ムダなコスト削減だと感じながらもムダな付帯業務は削減せず、人が価値を出さねばならない主体業務まで崩壊させてしまう。投資バランスという視点においても、非常に目先の対処的投資になっているケースは少なくありません。
このように長きに渡る危機的市況下であっても、1世紀を超えて続く老舗工務店が、当社のクライアント先に数社いらっしゃいます。愛知エリアのある工務店様を例に挙げましょう。代々に渡り語り継がれる企業理念があり、「家をつくる」という生業の役割が明確で、常に独自性と顧客志向を重んじられています。
次の時代を乗り切るための新しい事業モデルにも取り組まれ、急速な変化を恐れないアジリティーと、それを支える社内文化の醸成を常に意識されています。
そのうえで、自社の身の丈を見誤らず、市場の責任に置き換えることなく、常にデータを駆使しながら堅実な事業改善と健全な財務基盤を意識されている。だからこそ、いつの時代も着実に実績をあげられているのです。
今月のコラムでお伝えしたかったことは、着工統計をどれだけ眺めていても、正しい経営判断には至らないということです。現在の自社の状況を市場の責任に押し付けてしまうのではなく、敢えて「自社は何故選ばれないのか」を改めて自問自答してみることが大切なのです。
上記の老舗工務店様も、常に「相見積もり比率」「紹介比率」「値引き率」という3つの視点からロジカルに見つめ直し、傾向分析をしながら次の一手に創意工夫を凝らしていらっしゃいます。
読者の皆様も、是非一度、自社の現況をこの3つの視点から把握し、課題改善に向けた一歩を踏み出してみては如何でしょうか。きっと、これまで見えなかった課題を発見することができ、自責で捉える思考が徐々に芽生え始めるはずです。
次回のコラムは、皆様が生業にされている「家づくり」の根っこにスポットを当て、「なぜ、日本の家は30年で価値がゼロになるのか?」という、資産価値に対する日本だけの常識と非常識について迫っていきます。是非次月も楽しみにしていてください。