――― 倒産要因は「構造・財務・営業」の3つに整理できる。今回はそのうち、経営戦略で防げたはずの「価格転嫁」を掘り下げる。 ―――
今年も、昨年以上に住宅会社の倒産が相次いでいます。私も35年間この業界を見てまいりましたが、以前に比べ、現在の倒産には、経営戦略上の手を打っていれば防げたはずのものも多いように感じております。
業績が悪化する要因は、大きく「構造・財務・営業」という3つの視点に整理できると私は考えています。1つ目は、原価高騰による価格転嫁の失敗、いわば構造的要因。2つ目は、資金繰りのショートという財務的要因。そして3つ目は、集客不足と受注の不安定化による営業的要因です。このいずれかが悪化することで、経営難へと導かれていきます。今回のコラムでは、経営戦略しっかり取り組んでいれば防げたと思われる「価格転嫁」をテーマに、皆さんと深掘りしていきたいと思います。
コロナ禍からウッドショックを迎え、大きく揺れ動いた世界情勢のなかで、資源の少ない日本は、海外からのさまざまな資源に頼らざるを得ない状況となりました。そのような環境下で建築資材が高騰し、技術者・技能者不足から人件費も併せて高騰する。住宅そのものの製造原価の高止まりが常態化していくなかで、住宅販売における価格転嫁は必要不可欠となってきているのです。
しかしながら、なかなか価格転嫁できない会社は数多くあります。「なぜ価格転嫁できないのか?」――その考え方や仕組み、そして経営体質についてお伝えしていきますので、ぜひ今後の参考にしていただければ幸いです。
さて、「価格転嫁できない住宅会社」には、大きく3つの特徴があることを覚えておいてください。
【特徴1】
「コスト・財務」を可視化できていない
地域の中小工務店に多いのですが、これは「原価管理の曖昧さ」「感覚的な値付け」「根拠なきお願いや人情」という3大要素に起因します。これまではどんぶり勘定でもなんとかやって来られただけに、「まだまだ感覚でやれる!」という慢心が大きな落とし穴となるのです。
原価管理ができているといっても、原材料費・光熱費・労務費をトータルで眺めているだけで、いつ・何が・どれだけ上がったのかを正しいプロセスで数値化できていないようでは、会社全体のキャッシュフローへの影響は避けられないでしょう。
値付けについても同様です。「昨年どおり」「他社がこのくらいだから」と、原価にわずかな利益を付加するだけで価格を決めてしまう。協力業者等との交渉の場面でも、具体的なデータ提示できないまま感情的な値上げ要請に終始してしまい、納得を得られない関係性を築き始める傾向も否めません。
【特徴2】
取引構造や関係性に不利な要因を抱えている
この構造や関係性にはいくつかのパターンがありますが、最も多いのは、特定の1社への依存度が高い会社です。売上の大部分を特定の元請や不動産会社との取引に偏らせ、その主力会社からの信頼を失うことを恐れて、不利な条件でも仕事を継続せざるを得ない環境に陥ってしまう。特に下請け工務店等に多い傾向ですが、非常に危険な取引関係だと言えるでしょう。
逆もしかりです。協力業者に対しても、以前からのお付き合いや先代からの義理、現場監督レベルで使いやすい業者への忖度などによって、ビジネスライクな価格協議ができる土俵すら作れていない会社も少なくありません。これでは、正しい取引構造には発展せず、人的依存の関係性が経営体質として残り、健全な経営環境へと浄化されていかないのです。
【特徴3】
「商品・サービスの優位性」を築けていない
実は、ここを見誤る会社が非常に多いように感じます。圧倒的な競争優位性を築くには、「自社の存在価値を上げる」という解釈をしなければなりません。しかしながら、ほとんどの住宅会社は「商品やサービスをアップデートする」という解釈で捉えてしまいがちです。だからこそ、さまざまなコストコンサルティングに依頼したり、あらゆる住宅チェーンに加入したり、同業グループの勉強会や経営勉強会に参加したりする。同じ土俵に立つ経営者たちとの類似的な発想のなかからは、自社の企業価値を上げる思考には、なかなかたどり着けないと感じています。
どこの住宅会社でもお金さえ払えば実現できる程度の参入障壁であれば、結果的にどこでも造れる・代わりがいる状態と同じ。
自社の優位性を築く根幹にあるのは、まず「他社に代替されない商品やサービス」であり、参入障壁を高めなければならないということです。現在ある土俵のなかで原価を下げたり、商品ラインナップを増やしたりすることは、決して悪いことではありません。しかし、どこの住宅会社でもお金さえ払えば実現できる程度の参入障壁であれば、結果的にどこでも造れる・代わりがいる状態と同じですから、遅かれ早かれ競争に巻き込まれてしまう。事業そのものの発想や事業ドメインまでを大きく修正していく時代に来たのかもしれません。
もう一点、商品やサービスの優位性に関して大切なことがあります。それは、「自社の価値を言語化できない」という点です。品質や工期、提案力など、自社が強みとしている本質的な価値を社員がしっかりと言葉にできない。それが、ただの「コストアップによる値上げ」という説明しかできないことにつながる大きな要因の1つでもあります。
特に、言語化しにくい特徴こそ、実は何よりの自社の優位性であることが多いのです。なかでも「品質」というキーワードは、どんな住宅会社でも使う簡単な言葉だけに、「当社は品質や性能が高いですよ」「責任施工で安心ですよ」というセールストークが当たり前のように使われます。しかし、本当に品質が高い住宅会社は希少な存在なわけですから、この本質をどのように言語化するのか――この命題さえクリアできれば、圧倒的な競争優位性へと化けていくものなのです。
【結び】
価格転嫁は「穴埋め」ではなく「提供価値の増大」
価格転嫁とは、「コスト上昇分の穴埋め」ではなく「提供価値の増大」である。ぜひ、この点を再認識してみてください。穴埋め思考では、外部環境への帳尻合わせという体質から抜け出せず、社内に吹く風もマイナスへと傾いていきます。
お客様に対して品質や管理精度を数値化して証明してみる。これまで見えなかった仕事のプロセスをあえて可視化してみる。住宅を販売するという感覚から離れ、お客様の手間を減らしたり、これまで与えられなかった新たなベネフィットを創造してみる。自社の提供価値を創造するために、まだ誰もやっていない付加価値提供が、きっとあるはずだと私は思っています。