連載「家づくりの哲学」では、後悔しない家づくりのために、施主の視点から「どこを具体的に見極めるべきか」というポイントをお届けしてきました。

最終回となる第10回のテーマは、「家づくりの原理を知る」です。

住宅は、基礎から柱、梁、屋根へと「下から上へ」と組み立てられていきます。しかし、建物にかかる重力や風、地震などの力は、屋根や壁といった「上部・外部」から地面へと伝わっていきます。つまり、「家をつくる順序」と「力が伝わる順序」は完全に逆なのです。

間取りやデザイン、生活動線に目を奪われがちな家づくりですが、本当に安心できる住まいを手に入れる鍵は、この「力の流れ」を逆算して設計できる会社かどうかを見極めることにあります。

なぜ建物の原理を知ることが、最高のパートナー選びにつながるのか。最終回にふさわしい、家づくりの本質に迫ります。

日本の風土に適した「木造軸組工法」

日本での家づくりは世界的にも難易度が高く、それゆえに日本の建築技術は極めて高度なレベルと言われています。なぜなら、島国でありながら四季があり、そして地震や台風など、非常に過酷な自然環境の中で家づくりをしなければならないからです。

あわせて「Made in Japan」という、これまで長年培われてきた国内の「高い機能的品質」や「プロセス重視の製造品質」を基盤とした価値観の中で、消費者視点に立ち、満足度を常に追求すべく商品を提供し続けていかねばならないという国民性もあるでしょう。

現在の日本の家づくりの大半は木造住宅です。木造住宅にも様々な工法が存在しますが、基本となっているのは「木造軸組工法(在来工法)」であり、これは建物を「面」ではなく、垂直の「柱」と水平の「梁(はり)」、そして斜めの「筋交い(すじかい)」といった「線(軸)」を組み合わせて支える構造です。

この木造軸組工法が、これまで長く普及してきた背景には、次のような利点があります。

まず、日本の気候に合う工法であるということです。柱と梁で支える構造は、風通しや採光を確保しやすく、高温多湿な日本の風土に適していると言えるからです。また、耐力壁と言われる部分以外においては壁を取り払うことができるため、広いリビングや大きな開口を設けやすく、柱や梁の位置関係も調整しやすいので、間取りをミリ単位で柔軟に設計できる点も大きなメリットとなっています。

建物にかかる2種類の力:「常に加わる力」と「日々変化する力」

このような木造住宅には、日々、どのような力がかかっているか、皆さんご存じでしょうか。

建物にかかる力は大きく分けると「常に加わり続けている力」と、季節や環境によって「日々変化する力」の2種類があります。前者は建物の寿命がある限り24時間365日かかり続けている重力(垂直方向の力)です。建物そのものの重さだけでなく、そこで暮らす人の体重や家具・家電の重さも、床から梁へ、柱から常に伝わり続けています。

一方、後者の「環境によって変化する力」は、自然環境によって外から加わる力です。たとえば積雪地帯では、屋根に積もる雪の重みが家全体への負荷となります。また、風も侮れません。日々の風だけでなく、巨大台風クラスになると壁面に強い風圧がかかり、建物を押し倒そうとしたり、屋根を巻き上げようとしたりする大きな力が働きます。

さらに、突発的にかかる力として警戒すべきなのが「地震力」です。建物を左右に大きく揺さぶり倒壊に至る恐れもあり、建物の自重が重いほど、受ける地震力も大きくなります。

これらを整理すると、以下のようになります。

地盤へと力を逃がす「荷重伝達ルート」

このように、建物にかかる様々な荷重(力)は、屋根や床といった「高い場所」から始まり、骨組みを伝って最終的に地面(地盤)に抜けていきます。

これを「力の伝達ルート(荷重伝達パス)」と呼びます。

たとえば屋根にかかる力は、屋根材から骨組み(垂木・母屋)、小屋組(束)、梁、柱、土台を経て基礎へと伝わっていきます。また、2階の床にかかる家具や人の重さも、床材から床下地、床梁、柱、土台を伝って基礎へと抜けていきます。

さらに地震などの突発的な揺れに対しては、屋根や床の横揺れを「耐力壁」が集中して受け止め、柱と土台の接合部(金物)、基礎、そして地盤へと逃がしていく仕組みです。

どのような力であっても、最終的にはすべて「基礎」を通り、「地盤」へと受け流されていることがわかります。

家づくりは「力の伝達ルート」の逆から考える

こういった力の流れをイメージしていただければ、実際の家づくりは「地盤 → 基礎 → 土台 → 柱 → 梁」というように、力の伝達とは全く逆の順序で進んでいくことがおわかりいただけるかと思います。

だからこそ、建物にかかる様々な荷重がどのようにかかるのかを、事前にしっかり想定し、入念に検討・計画をしなければならないのです。

本来、安心・安全に暮らせる住まいとは、一番最後に力が伝わる地盤への負荷を十分に想定し、その地盤を支える経済的かつ強固な基礎計画、そして木造部分である土台から柱・梁と、木構造に対する適切な構造計画まで一貫して実現できる住宅です。

しかし、実際の家づくりでは、デザインや間取り、生活動線、収納などは、もちろん大切な決め事ではありますが、どうしてもこれらを優先してしまいがちです。何より大切なのは、自分たちが安心・安全に暮らし続けられる住まいを、つくり手と一緒に考えていけるかどうかということです。

現在では「つくる」こと以上に「売る」ことが先行してしまう場合が見受けられる中、このような技術を保持する良質な住宅会社は、非常に少なくなってきています。

耐震性・耐久性・省エネ性など、高性能な住宅を望まれる方であればあるほど、営業時でのアピールだけを参考にするのではなく、その住宅会社が「どんな想定や計画で家づくりをしているのか」という視座の高さに注目していただけると、素晴らしい家づくりに直結していくと確信しています。

編集部のあとがき:家づくりの本質を見極める視点

全10回にわたってお届けしてきた連載「家づくりの哲学」も、今回で最終回となります。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

最終回である今回は、施工と力の流れが真逆であるという「家づくりの原理」について解説しました。下から組み立てる家だからこそ、上から降りてくる力を逆算し、足元である地盤や基礎から綿密に計画しなければならない。この物理的な当たり前こそが、住まいの安全を支える原点です。

本連載では、住宅会社の実力差や工事監理の実態といった業界のリアルから、諸費用や時期、保証・保険の落とし穴、そして表面的な数値だけでは測れない性能や施工精度に至るまで、施主の視点に立って徹底的に掘り下げてきました。

一貫してお伝えしたかったのは、間取りやデザインといった目に見える部分の奥にある「目に見えない本質を見極める視点」です。

家づくりは、多くの人にとって一生に一度の大きな決断です。だからこそ「どんな家を建てるか」と同じくらい、「どんな想いや技術を持ったつくり手と出会えるか」が大切になります。

全10回を通じてお届けした知識が、皆さんのこれからの住まいづくりにおいて、後悔のない確かな選択をするための一助となれば幸いです。

<すべての連載はこちらから>

▶家づくりの哲学#1「住宅会社の実力の差は、一体どこで生まれるのか?」

▶家づくりの哲学#2「施工管理と工事監理の違いと業界の実態とは?」

▶家づくりの哲学#3「「新築か?中古リノベか?それとも中古リフォームか?」―どれにするかの正しい判断基準とは?」

▶家づくりの哲学#4「家づくりに必要な諸費用って、どのくらいかかるの?~想定外!? にならないための共通知識~」

▶家づくりの哲学#5「「保証」と「保険」の勘違いから大きなトラブルへ!」

▶家づくりの哲学#6「家づくりをするベストな時期って!?」

▶家づくりの哲学#7「住宅品質に不安を抱く時期のほとんどが“契約後”」

▶家づくりの哲学#8「性能の高い家を、買う前に見分けるコツ」

▶家づくりの哲学#9「省エネ性能の裏側とは?施工精度で変わる本当の快適性と経済性」