「家づくりの哲学」では、住宅建築において消費者が「どんなところで具体的に見極めたらいいのか?」という疑問やポイントを解説しています。
第9回のテーマは「省エネ性能の裏側とは?」です。
物価高の時代だからこそ「省エネ」に対する関心が非常に高まってきました。光熱費は生活をしていく上で必要不可欠なものでありながらも、毎月の家計を圧迫してしまう大きな要因にもなりがちです。
そんな日々の経験からも、新しい住まいでは「省エネ性能が高く、光熱費が抑えられる住宅を購入したい!」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
今回はそもそも「省エネ性能が高い住宅」とは、どういうものなのかという原点を紐解いていきましょう。これから家づくりをされる方だけでなく、リフォームを検討される方もぜひ参考にしてください。
そもそも住宅の「省エネ性能」とは何か?
「省エネ性能」とは、少ないエネルギーで夏は涼しく、冬は暖かく過ごせる「快適性」と「経済性」に優れた住宅を意味します。
2025年4月からは、原則すべての新築住宅で省エネ基準への適合がすでに義務付けられ、家づくりにおける必須の基準となっていますので、一定の省エネ性のグレードは以前と比べて数段に上がってきていると言えます。
しかしながら、各住宅会社がアピールする省エネ数値の高さだけで判断してよいかというと、決してそれだけではありません。建てた後に本当にその数値通りの性能を出せるかという「施工管理体制」や「断熱施工時に引き起こすリスク」を、どれだけ理解して家づくりを行っているかなどが重要になってきます。
ではここからは、省エネ性能に関する裏側を紐解いていきます。
省エネ性能を構成する「3つの柱(UA値・ηAC値・C値)」
一般的な省エネ性能は3つの柱で構成されています。

このような3つの柱を理解し、快適性と経済性のバランスをどのように本質的に獲得していくかが最も重要となってきます。
現在の一般的な評価指標として、外皮平均熱貫流率(UA値)が主流となっており、皆さんもよく耳にすることが多いと思います。その理由は、各社がこの数値の最小化をアピールすることで「いかに当社が熱の逃げにくい住宅をつくっているか?」を訴求し、互いに競い合っている環境下にあるからなのです。
さらに差別化を図るために、各社は性能を高めるための工夫をしてきています。例えば、高効率設備と言われる高性能エアコンやLED照明、エコキュートなどの給湯器を採用している会社も多いでしょう。また、創エネルギーと言って、太陽光発電や蓄電池を組み合わせ、自宅で使うエネルギーを自分で賄うなどの工夫も凝らしてきています。
設計上の「省エネ数値」は、あくまで計画の想定にすぎない
このように、各住宅会社は自社商品を販売するために、自社の住宅スペックの高さを追求し、他社との差別化につなげようとする流れは理解できるのですが、これはあくまで住宅を建てる前の計画上の想定数値であることだけは覚えておいていただきたいのです。
言い換えれば、計画通りのしっかりとした断熱施工や気密施工、また正しい設備の設置技術が伴ってこそ実現する性能だということなのです。前述したように「快適性と経済性のバランスを本質的に獲得する」ためには、計画通りの施工がなされているかという職人の技術や現場の管理能力をしっかりと見極めることが大切なのです。
特に断熱性能に関しては、様々な断熱材が存在します。
- 充填式の繊維系断熱材:グラスウール、ロックウールなど
- ボード施工式の発泡プラスチック系断熱材:ポリスチレン、ウレタンフォーム、フェノールフォームなど
- 天然素材系断熱材:セルロースファイバー、羊毛などのウール断熱、炭化コルクなど

断熱材の種類と一例
このように様々な断熱材がありますが、素材が持つ特性だけで性能が発揮されるものではなく、それぞれが持つ長所や短所、そして施工方法によるリスクなどを回避した上で、初めて正しい性能が成り立ちます。
例えば、普及率の高い一般的なグラスウールの事例を挙げてみましょう。
グラスウールとは、高温で溶かしたガラスを細かい繊維状にして綿状にした無機繊維系断熱材ですが、一般的には大工が隙間なく壁の内側から手作業で充填していく施工をします。
その際、断熱材の耳部分を間柱間にしっかりと隙間なく留め付け、表面の防湿層に傷をつけないよう施工するのですが、当社の第三者監査でチェックすると、多くの現場で、隙間や破れなどを含め、適切に施工されてないケースが数多く見受けられます。
このような状況だと、設計時に想定していた性能値というものが本当に出ているのか疑念が残ります。
【実地検証】施工精度の低さで省エネ性能はここまで落ちる
当社では、熱貫流率(U値)を測定する赤外線サーモの測定器を保有しており、以前、簡易的に実態調査しました。
測定方法は簡単で、外気温と室温の差を10度以上つける環境下に置き、室内外に専用サーモセンサーを取り付けた後、室内から内側サーモセンサーに向かって赤外線カメラを当て、日陰になる夕方から深夜、そして朝まで計測します。
この実験では、断熱材にグラスウールを採用している施工現場5件(施工精度の高い現場と低い現場をミックス)を対象に実施しました。
実験結果はやはり想定通りでした。施工精度の高い現場は設計段階の想定を超える性能値が計測されたのに対し、反対に施工の悪い現場では、想定をかなり下回る結果となったのです。

目に見えない「本当の性能」を見極めるポイント
このように目に見えない性能という評価は、住まうお客様の体感でしかなく、住宅会社から言われた性能が実現できていると信じるしかないのが実情です。耐震性能しかり、住宅におけるあらゆる性能値は、全て施工精度と紐づくことを知っておいていただきたいのです。
また最近増えている「基礎断熱仕様」の住宅では、基礎のコンクリートから放出される大量の水分の影響で床下に湿気がこもり、カビが生えるケースも増えています。省エネを求めるがゆえに弊害となる現象はあまり知られておらず、特に夏場や梅雨時期は密閉空間となるため湿気の逃げ場がなくなり、施工中の段階で白カビや黒カビがすでに生えているケースもあるくらいです。
しかし、施工力の高い住宅会社では、強制換気や送風機の設置を義務付け、施工中から床下の空気を強制的に動かすことで湿気を滞留させない工夫をしたり、基礎のコンクリートの乾燥状態をしっかりチェックしてから工事を進めるなど、綿密な施工管理を実施しています。
このような姿勢と高い施工管理レベルを備えた住宅会社を見極めていただくことで、きっと期待通りの「快適性と経済性が実現できる省エネ住宅」を手に入れることができるのではないでしょうか。
編集長のあとがき
今回の省エネ性能の裏側はいかがでしたでしょうか。設計上の数値だけでは見えない施工精度や、性能を求めるがゆえの弊害など、ハッとさせられる内容でしたね。
これまで「家づくりの哲学」では、お金や保証、契約後の不安から施工の裏側に至るまで、住宅業界のリアルをお届けしてきました。
次回はいよいよ連載の締めくくりとなる第10回(最終回)です!これまでの連載を踏まえながら、家づくりで後悔しないための見極めについてお届けします。どうぞお楽しみに!
<これまでの連載はこちらから>
▶家づくりの哲学#1「住宅会社の実力の差は、一体どこで生まれるのか?」
▶家づくりの哲学#2「施工管理と工事監理の違いと業界の実態とは?」
▶家づくりの哲学#3「「新築か?中古リノベか?それとも中古リフォームか?」―どれにするかの正しい判断基準とは?」
▶家づくりの哲学#4「家づくりに必要な諸費用って、どのくらいかかるの?~想定外!? にならないための共通知識~」
▶家づくりの哲学#5「「保証」と「保険」の勘違いから大きなトラブルへ!」