家づくりにおいて「構造」は、完成後にはほとんど見えなくなる部分です。しかし、その見えない部分こそが、住まいの安全性や耐久性を支えています。
今回の記事では、第三者監査・建物調査の専門家として数多くの現場をみてきた山下に、実際に構造部分で起こりがちな施工不備について話を聞きました。
どれも一見すると小さなミスに見えるものばかりです。釘が1本足りない、金物が少し緩んでいる、ビスが指定通りに打たれていないなど、すぐに不具合が出るとは限りません。
しかし、構造は「計算された積み重ね」で成り立っています。本来入るべき金物や釘が欠ければ、その性能は設計通りに発揮されません。構造部分は、瑕疵保険の検査項目にも含まれています。それでもなお、現場では細かな施工不備が見つかるのが実情です。
なぜそうしたことが起こるのか。どこまで確認すべきなのか。本記事では、具体的な事例をもとに、構造監査の現場で実際に指摘された内容を紹介していきます。
解説:山下陽平
有名建築家の案件に携わった構造設計の経験に加え、建築トラブルや裁判対応を数多く支えてきた建築の専門家。現在は監査基準の策定にも関わりながら、第三者の立場で建物調査・監査を行い「建築トラブルのない社会」の実現に取り組んでいる。
構造の要は「構造の定義を正しく知ること」
家づくりにおいて「構造が大事」という言葉はよく耳にしますが、具体的に建物のどの部分が「構造」にあたるのか、正確に答えられる人は多くないと思います。建築基準法施行令では、建物の強度を担う部分を「構造耐力上主要な部分」と定義しています。
具体的には次の部位です。
- 基礎、基礎ぐい
- 柱
- 土台、梁(はり)、桁(けた)
- 筋かいなどの斜材、耐力壁
- 屋根版、床版(※2階以上の床を指し、1階の床は含まれません)
似た言葉に「主要構造部」という表現もありますが、こちらは防火や避難安全の文脈で使われる言葉です。構造の安全性を考えるときは「構造耐力上主要な部分」を軸に考えると、理解しやすいでしょう。
法律の内容は専門性が高く難しいですが、構造のどこが重要なのかを理解することで「少し直せばいい問題」と「しっかり直さなければいけない問題」の区別がつきやすくなると思います。
9割近くは施工不良で倒壊!?高性能と聞いていたのに…
言葉を理解するのも重要ですが、ではそもそもどういった家づくりが安心なのかを話していこうと思います。
「構造計算をして、性能評価を取っているから安心」と思われる方も多いでしょうが、私はそれだけでは不十分だと考えています。それは机上の計算に過ぎないからです。
「これだけの性能を求めています」という条件を満たしていても、現場の施工に問題があったら、設計段階よりも性能が低いものができてしまい壊れてしまうのです。
法律でも、基礎と土台、柱や梁といった構造の要となる部分は、確実に緊結されていることが求められています。そのため現場では、それぞれの部材が欠けていないか、所定の位置に適切に固定されているかを、一つひとつ確認していくことが重要になります。
また、興味深いデータがあります。それは、2016年に起きた熊本地震での国土交通省の調査結果です。
その調査結果によると、熊本地震では「新耐震基準」を満たした住宅のうち83棟が倒壊したと報告されています。そのうち、73棟が構造耐力上主要な部分の「施工不備」によるものだったのです(※)。9割近くは施工不良で倒壊しているということになります。
(※)引用元:国土交通省「熊本地震における建物被害の原因分析を行う委員会報告書のポイント」より
なので私は「どんな構造か」だけでなく「その構造が現場でどうつくられているか」を、きちんと見ることが大切だと思っています。とはいえ、すべてを専門知識をすべて覚えて、判断する必要はありません。実際の現場では、お施主さま自身でも確認できるポイントがあります。
次は、現場の写真を使いながら、お施主さま自身でも確認できるポイントを解説していきます。
不備事例①金物の取り付け不備

まずは現場で、ほぼ必ずと言っていいほど起こるのが金物の取り付け不備です。金物は種類も多く、メーカーによって形も違いますが、ここで起こる施工不備は決まっています。
- 取り付け忘れ
- 強度の違う金物を付けている
- ビスの打ち忘れ、あるいは種類間違い
住宅建築をするうえで、使用する材料は、国土交通大臣の認定を受けたものしか使用できないことが法律で決まっています。それぞれ強度の計算と実験をした上で認定を受けているためです。
たったひとつビスが抜けていたからといって、すぐにはなにか起きることはないかもしれません。ですが、指定された位置に、指定された本数を打つことで力が発揮する前提で設計されていますので、ひとつとして欠かすことがあってはいけません。
また、メーカー違いも同じです。A社の金物とB社の金物が柱の上下で使われているというのは現場ではたまにあることです。それぞれが認定をうけていたとしても、その組み合わせでの強度は確認されていません。
金物は付いていればOKではなく「正しい部品が、正しい方法で付いているか」そこまで含めて、初めて意味を持つものなのです。
不備事例②ドリフトピンの打ち忘れ

次に多いのがドリフトピンの打ち忘れです。ドリフトピンとは、木材を差し込んだあとにピンを打って固定する金物工法の接合部で使われるものです。
大工さんが腰袋に大量のピンを入れて、指定された箇所にテンポよく打っていきます。作業自体は単純に見えますが、数が多い分、どうしても打ち漏れが発生してしまうことがあるのです。
そこで現場では、必要な本数が500本だとしたら、予備を含めて510本だけ用意しておき、最後に余った本数を数えて、打ち漏れがないかを確認する方法をとることもあります。
地道な確認ですが、こうした積み重ねが構造の品質を支えています。
不備事例③ホールダウン金物の緩みと干渉
次は、ホールダウン金物に関する不備です。

まずはナットの緩みです。ホールダウン金物は反対側とのバランスを見ながら調節する必要があるため「最後に締めよう」と思ったまま、締め忘れてしまうケースがあります。
また、次によくあるのが干渉です。

これは施工の仕方も誤りですが、設計段階での確認ミスが起因となっています。設計者が現場での納まりまで想定できていないと、こういった問題が起きます。
この写真では、筋かいプレートとホールダウンが同じ位置に重なり、ホールダウン金物が浮いてしまっています。設計段階で、金物の向きを変えるか、ホールダウン金物の位置を上げる部材を使用するなどの工夫をして、干渉を避けなければいけません。
現場で大工さんに無理をさせるのではなく、これは設計段階で気を付けておくべき不備だと思っています。
不備事例④筋かいや梁で起きやすい注意点
筋かいは、三角形をつくることで強度を高める構造です。こうした三角形の構造はトラスと呼ばれ、鉄橋や大きな建物でも使われています。住宅でも同じ考えで、筋かいをいれるのですが、その筋かいまわりの不備というのが、実はかなり多いです。

まずは、筋かいプレートのビスの打ち忘れです。筋かいプレートひとつとってもこれだけのビスを打ちますので、どうしても打ち漏れが起きやすい部分です。
次に注意したいのが、筋かいプレートの取り付け位置です。

筋かいプレートは、柱に取り付ける必要があります。ところがこの写真の例では、一部が梁に取り付けられています。
これがなぜ問題かというと、地震などで筋かいに梁を圧縮する力がかかったとき、梁が持ち上がって抜けてしまう可能性があるからです。これも設計段階の不備となります。現場ではここに打つしかなく最大限柱に近づけて打ってはいますが、これではしっかりとした強度が保たれない可能性が高いです。
それから筋かいそのものの品質にも注意が必要です。構造耐力上主要な部分に使う木材は、欠点のないものを使うことが法律で定められています。

写真のように「死に節」と呼ばれる穴の空いた部分がある場合、力がかかった際にそこから折れてしまう可能性があります。この場合は、交換や補修が必要な木材です。
また梁の接合では、羽子板ボルトの取り付け忘れもよく見られます。

金物が付いていれば気づきやすいのですが、パーツ自体が付いていないと、お施主さまが現場で見つけるのは難しいかもしれません。
不備事例⑤面材耐力壁の釘の打ち不備
先ほどトラスの話をしましたが、最近の住宅では三角形ではなく「面」で強度を確保する「面材耐力壁」という考え方も増えてきました。この場合、重要になってくるのが「釘」です。
釘は、
- 打つ間隔
- 端からの離れ
- 釘の種類
が決められており、それを守ることで、想定した強度が発揮されます。

写真では、面材耐力壁の一部で釘が未施工のままとなっています。ここまで未施工ということは足場や部材が邪魔になったり、なにかしらの理由で施工できず、そのまま忘れてしまったのだと思われますが、一部でも欠けると本来の強度は発揮されません。
もうひとつ、注意したいのが「釘のめり込み」です。

このメーカーの基準は「めり込み1㎜以下」ですが、写真の釘は約4㎜ほど沈み込んでしまっています。
面材耐力壁は、釘が板を押さえることで力を伝える仕組みなので、板を釘が突き抜けてしまうと強度が大きく低下します。木材は場所によって固さが違うので、機械で打つとどうしても深くなったり浅くなったりします。中には、あえて機械ですべて浅めに打ってから、最後に手打ちで何千本と調整する会社もあります。手間はかかりますが品質を保つひとつの方法です。
めり込みが発生している場合はそのままにせず、少し位置をずらして釘を打ち直す必要があります。
不備事例⑥小屋組の不備
最後に小屋組です。ここは屋根裏の部分のため、お施主さまご自身では確認が難しい場所かもしれません。無理に自分で確認するのではなく、監督さんなどに声をかけ写真で確認させてもらうのが安全で確実です。

この写真は、かすがいの打ち忘れの例となります。高所作業になるため「後でまとめてやろう」と、そのまま忘れてしまうことがあります。
また、屋根裏には「振れ止め(雲筋かい・小屋筋かい)」という斜め材を入れ、三角形(トラス)を作ります。こうすることで屋根の揺れを抑えます。

ただ、この部分は設計図に細かく記載されていない事がほとんどで、現場での大工さんの経験に委ねられがちな箇所です。そのため、取り付けや固定の確認が漏れてしまうことがあります。せっかく振れ止めを入れていても、釘やビスで確実に固定されていなければ意味がありません。
すぐに不具合が出るわけではありませんが、こうした小さな打ち忘れの積み重ねが、最終的な性能不足につながることもあります。だからこそ、見えない部分ほど丁寧な確認が大切になります。
「保険のため」ではなく「正しい施工」のための監査
今回解説した構造部分は実は「瑕疵保険」の検査項目にも含まれている内容です。
ですが、保険の検査はあくまで「保険を通すための最低限確認」であり、現場の細かな打ち忘れや、施工精度まですべてを見るものではありません。
「釘が1本足りない」「ビスが少しめり込んでいる」「金物のナットが緩んでいる」そういった部分まで、必ずしも踏み込んでチェックするわけではないのです。
私たちの監査では「保険を通すための検査」ではなく、施工会社の品質の取り組みを評価するものです。施工不良を完全にゼロにできると断言することはできません。それでも「見えなくなる前にできる限り細かく確認していく」その積み重ねが、将来の安心につながると考えています。