「家づくりの哲学」では、住宅建築において消費者が「どんなところで具体的に見極めたらいいのか?」という疑問やポイントを解説しています。

第7回となる今回のテーマは、多くのお施主さまが直面する「契約後の不安」です。

契約前は夢膨らむ家づくりだったはずなのに、いざ着工して現場を覗くと「挨拶がない」「現場が荒れている」「SNSでネガティブな情報を見て不安になる」といった悩みを抱える方は少なくありません。

なぜ、住宅品質への不安は「契約後」にピークを迎えてしまうのでしょうか?

今回は、契約後に心理が変化するメカニズムや建築トラブルの現実、そして後悔しないための具体的な防衛策をプロの視点から詳しく解説します。

なぜ「我が家はきっと大丈夫」と思い込んでしまうのか?

「住宅の品質は大切」と思ってはいても、やはり家づくりを進めていく上で、住宅会社側のあらゆる提案や内容から「我が家はきっと大丈夫だろう」と思ってしまいがちです。

例えば、以下のようなイメージや風評をそのまま信じてしまっていないでしょうか。

  • 建築会社が自分の知り合いだから安心!
  • 良い職人さんが揃っているから大丈夫!
  • 大手会社だから信頼感がある!

こうした直観や感覚を私は決して否定しているわけではありません。しかし、すべてのお施主さまが100%満足されているのかというと、現実的にはそうではありません。

なぜなら、住宅の施工品質は企業そのものが作り出すものではなく、現場で作業する技術者や技能者の集大成によって左右されるからです。

この現象には、お施主さまの「性善説心理」が働いていることが、実は大きな要因の1つだと言われています。

住宅を購入するという心理的感覚の中には、車を購入する感覚や、家電製品を購入する感覚に近い思考で住宅を購入する方が多いかと思います。

もちろん価格はこれらの数倍~数十倍も高価なので、より慎重になることは間違いないのですが、最終的には「ちゃんとしたものがきっと建つだろう」という性善説が働き、家づくりの計画段階では「施工品質の確認」が最重視されにくい傾向にあります。

住宅品質セミナーに「契約後」のお施主さまが集まる本当の理由

私はこれまで、多くの住宅会社で企画されるお施主さま向けセミナーの講師を務めてきましたが、現場でいつも感じることがあります。

セミナー企画は、住宅ローンの資金計画や土地探し、間取り・プランニングに関するセミナーが主流なのですが、参加される方のほとんどが、これから住宅会社選び、契約を結ぶ前の「契約前のお客様」でした。

当然、このようなセミナーに参加することは、購入決定に近づけるプロセスとしても非常に有意義で、不安解消にもつながる関心高い内容だと思います。

一方で「住宅品質」に関するセミナーも、近年は多くのご家族が参加されるようになってきました。ここで驚くことは、参加者半分近くが、すでに特定の住宅会社と契約を済ませている「契約後のお施主さま」であるという点です。

つまり、色々と営業や設計提案の中で「ここで建てよう!」と決心して契約したものの、着工までの期間や工事中の段階になり、

「本当に自分の家はちゃんと建つのだろうか?」
「引き渡し後には、しっかりメンテナンスしてくれるのだろうか?」

といった、一抹の不安を感じる方が非常に増えてきているのです。

ワクワクが一転…「理想の家づくり」が怒りや不安に変わってしまう理由

契約前までは、自分の理想を形にしていくワクワクとした「建設的な心理フェーズ」にあります。しかし、自身の希望する内容がある程度決まった段階からは、現実的な施工の様子が見えてきます。

その期待通りにいかない局面に直面したり「もしかして…」という懸念が頭をよぎったりすることで、心理フェーズが一転して「否定的な思考」に切り替わり、不安要素が急激に浮き彫りになってくるのです。

品質セミナーに契約後のお施主さまの参加が多いという背景には、このような心理の変化があると言えるでしょう。

実際、当社に依頼がくる建築トラブルの相談案件も残念ながら年々増加しております。傾向としては、引き渡し後のクレーム以上に「建築中のトラブル」が圧倒的に多い状況です。

このようなお客様も、きっと契約時には納得されて契約し、夢のマイホームを心から期待されたに違いありません。契約に至るまでは、住宅会社から性能の高さやランニングコストメリット、また間取りやデザイン性、さらには長期保証など、表向きの良い部分を沢山伝えられます。

それだけに説明とは裏腹に予期せぬ施工不良や対応不足(期待とのギャップ)に直面したときに、ネガティブな感覚からどんどんと怒りに転じてしまうのです。

このような事象からも、どれだけ建てる前の設計性能が高かろうが、コスパが良かろうが、住宅品質の良し悪し一つで、満足度に天と地ほどの差が生じてしまうことがあることだけは、しっかりと認識していただきたいです。

家づくりはやり直しがきかない「一生に一度の一回勝負」

家づくりの感動とリスクの分かれ目は、家づくりが「一回性」であるということに起因します。

自動車や家電製品のように、失敗や反省を繰り返しながら、一生に何度も買い替えていく循環であれば人は段々と学習していくので問題ありません。しかし住宅はほとんどの方が「一生に一度」という一回勝負の世界であるだけに「組んでしまった住宅ローン」「建ってしまった建物」だけが現実に残ってしまい、決して後戻りすることはできないのです。

おそらく国内だけでも、何万人とこのような状況で苦しんでおられるお施主さまがいらっしゃると思います。

「あの時に、ちゃんと専門家に目を入れてもらっておけば…」「施工中にしっかり直して前に進めてさえいれば…」という後悔は、後からでは取り戻せません。

どれだけ優秀な住宅会社であっても、半年近い工期の中で、30種類近い専門業者が属人的に仕事をするわけですから、人がやる以上、間違いや失敗をゼロにすることは非常に困難です。

だからこそ、我々のような建築の専門会社が、第三者視点から公正かつ公平に、そして客観的に目を入れることがどれだけ効果的なことかを、ぜひ知っていただきたいと思います。

編集長のあとがき: 当事者になって初めて分かった「契約前後」のプレッシャー

今回の「契約後の不安」についてのお話、いかがでしたでしょうか。

編集長である私自身、先日思い切ってある物件の抽選に申し込んでみました。まだ契約前ですが、当選すれば必ず契約に進むルールだったため、一歩を踏み出した瞬間に「本当にこれで大丈夫なのだろうか…」と、当事者になってみないとわからない強い不安が押し寄せてきました。

物件が近所だったこともあり、現場の前を通りかかっては状況を見ていたのですが、施工の仕上がりに気になる点や、専門的な視点で確認が必要だと感じる箇所がいくつか見受けられました。

幸い、私には建築の知識が少しあったため、申込の前に「こういった部分は修正してもらえますか?」「外部の第三者同行で現場確認してもいいですか?」と事前に確認することができました。

しかし、もし知識がなければ気づくことができず、引き渡し後に不安や不信感が募って、大きなトラブルに発展していたかもしれません。仕様や間取りの確認、ローンの試算などで頭がいっぱいになり「住宅の品質」にまでなかなか目が届かないという難しさを、私自身も身をもって体験しました。

お施主さまご自身が専門家レベル(プロ施主)になる必要はありません。ただ、こうした予備知識が少しあるかないかだけで、家づくりの結果は大きく変わるのではないでしょうか。

<これまでの連載はこちらから>

▶家づくりの哲学#1「住宅会社の実力の差は、一体どこで生まれるのか?」

家づくりの哲学#2「施工管理と工事監理の違いと業界の実態とは?」

家づくりの哲学#3「「新築か?中古リノベか?それとも中古リフォームか?」―どれにするかの正しい判断基準とは?」

家づくりの哲学#4「家づくりに必要な諸費用って、どのくらいかかるの?~想定外!? にならないための共通知識~」

家づくりの哲学#5「「保証」と「保険」の勘違いから大きなトラブルへ!」

家づくりの哲学#6「家づくりをするベストな時期って!?」