大工の家庭に育ち、宮大工の修行や構造計算の習得を経て、現在は住宅業界の「基準づくり」を担うNEXT STAGEの一級建築士・小酒(こさけ)さん。
前編ではこれまでのキャリアと大きな夢について語っていただきました。
続く後編では、より読者の皆さまの目線に立った「実践的な家づくりのノウハウ」をお届けします。
人の手でつくる以上、どうしても避けられない施工ミス。それに気づき、修正していくために、私たち施主(消費者)は何ができるのか。一般の方でも実践できる「現場セルフチェックのコツ」から、本当に信頼できる「良い施工現場の定義」、そして後悔しない家づくりのための「2つのアドバイス」まで、じっくりとお話を伺いました。
▶【前編】なぜ設計と現場はすれ違うのか? 宮大工を経験した一級建築士が目指す「図面の統一」
<取材協力>(株)NEXT STAGE 小酒 徹也
消費者ができる現場のセルフチェックと「良い施工現場」の定義
──ここからは「住宅の品質」についてお話を伺いたいと思います。まず、一般の消費者ができる「現場のセルフチェック」について、小酒さんはどうお考えですか?
正直なところ、図面というのは現場で見慣れている職人や施工管理者でさえ、見づらかったり理解に苦しんだりすることがあります。そのため、一般の方が図面を片手に「すべてがその通りになっているか」を確認するのは極めて難しいと思います。
ただ「ビスの打ち方」や「締め込み具合」といった特定のポイントであれば、専門知識がなくてもチェックが可能です。ですので、ぜひご自身の建てる現場には積極的に足を運んでいただきたいですね。
どれだけ注意していても、人の手でつくる以上、施工ミスを100%ゼロにすることは不可能です。大切なのは「ミスを完璧になくすこと」ではなく「ミスに気づき、その場で直して、次の工程に進むこと」。ビスが1本緩んでいたからといって、家がすぐに倒壊するわけではありません。しかし、その1本のビスも、構造計算上は確実に必要なパーツです。
「気づいたら直す」。これが基本ですが、壁の内側などに隠れてしまうと見つけにくくなり、後々になって大きな施工不良として響いてきます。ですから、やはり「第三者の目」が必要になります。
──第三者の目、ですか。そうは言っても、専門知識のない一般の施主が見に行っても「どこをどう見たらいいか分からない…」と不安になってしまいそうですが、それでも効果はあるのでしょうか?
もちろん、構造計算通りの配置になっているかといった専門的な確認は、プロの視点がなければ難しい部分もあります。
ただ、施工不良を未然に防ぐという意味では、お施主さまやご家族など「さまざまな視点の目」が現場に入ること自体に大きな価値があるんです。
現場の職人さんや監督さんに「いつでも見られている」「関心を持たれている」という意識を持ってもらう(意識づけをする)だけでも、現場の良い緊張感に繋がり、結果としてより丁寧な施工やミスの防止に繋がりますからね。

──では、小酒さんが考える「良い施工現場」の定義を教えてください。
これは他の記事でも一貫して伝えていることですが、やはり「整理整頓が徹底されている現場」です。現場には、その会社や現場監督の「家づくりに対する姿勢」がそのまま表れると私は思っています。
──本当にそうですね。私の自宅の周りでも新築工事をしている土地を見かけますが、結構ゴミが散らかっていたりすることがあります。「もし自分の家だったら…」と思うと、やはり嫌な気持ちになりますよね。
案内された施工現場で、資材が乱雑に散らかっていてゴミが放置されている現場と、きれいに片付けられていてゴミも細かく分別されている現場、どちらが安心できるかは一目瞭然ですよね。
もし契約前であれば「この会社に頼むのはやめよう」という判断材料になりますし、契約後であれば「ここに任せて大丈夫だろうか」とショックを受けてしまうと思います。現場の綺麗さはお施主さまへの向き合い方の表れですので、ぜひ注目して見てほしいポイントです。
──現場の綺麗さ以外にも、施主の目線から見て「ここは信頼できる、良い会社だな」と見極めるポイントはありますか?
前編でも少しお話ししましたが、やはり「お施主さまのために、全員が同じゴールを向いている会社」ですね。
実は、契約前の事前打ち合わせなどの段階でも、そうした姿勢は意外と垣間見えるものなんです。こちらの要望に対するレスポンスの誠実さだったり、デメリットも隠さず説明してくれたり。
設計担当も現場の監督も、全員が「良い家を届ける」という同じマインド(意識)を持って家づくりに携わっていれば、現場でのボタンの掛け違いもなくなり、大きなトラブルや施工不良は発生しにくいと考えています。

後悔しない家づくりのための「2つのアドバイス」
──それでは最後に、この記事を読んでいる読者の皆さんへアドバイスをお願いします。
アドバイスになるかは分かりませんが、伝えたい大切なポイントが2つあります。
- 「見栄え」だけでなく、構造や断熱など「完成後に隠れてしまう中身」に興味を持つこと
どれだけ内装や外観が完璧に仕上がっているように見えても、そこに至るプロセスで多くの施工ミスが発生している可能性があります。「見つけて、直して、進む」ができていれば問題ありませんが、見落とされるなどして放置されているケースも珍しくありません。
だからこそ、建築途中の「中身」にもしっかり目を向け、分からないことがあれば現場の監督さんに遠慮なく質問してみてほしいです。 - コミュニケーションを密に取ること
1つ目のポイントにも通じますが、分からないことや不安なことがあった際、うやむやにせず現場や営業の担当者にしっかり確認し、コミュニケーションを取ることが非常に重要です。家をつくる職人も営業マンも同じ人間です。言葉にしないまま「こちらの気持ちを汲み取ってほしい」と思っても、なかなか伝わりません。
また、一度契約を結んだ以上、施主として主体的に家づくりに関わることが大切です。まずは契約前に「しっかりとコミュニケーションが図れる会社なのか」を見極めること。そして契約後は、お互いに信頼関係を築きながら対話を重ねていくこと。これこそが、最高の家づくりを成功させる鍵になるのではないでしょうか。
──家づくりは結局は人がつくるものであり、関係性こそが最も重要だということですね。今回は貴重なお話をありがとうございました!
編集長のあとがき
大工のお父さまの背中を見て建築の道を選んだ、小酒さんのインタビューはいかがでしたでしょうか。小酒さんは新築の基準づくりだけでなく、リノベーションの基準づくりにも携わり「基準をつくる要(かなめ)」といえる存在です。
今回のインタビューで特に印象的だったのが「設計」と「現場」の間にある考え方のギャップについてのお話でした。同じゴールを目指して切磋琢磨する戦友のような間柄でありながら「図面を描く人(基盤づくりをしている人)」と「実際に形にする人(つくり上げる人)」の間には、どうしても意識の差が生まれてしまう。これは職種が異なる以上、仕方のないことかもしれません。
私たちもいち消費者として、施工会社を単なる「発注先」とするのではなく、二人三脚で同じゴールへ向かう「パートナー」として信頼関係を築いていくことが、納得のいく家づくりのキーポイントになるのだと痛感させられました。
プロに任せきりにせず、関心を持って現場を見守り、たくさん会話を重ねること。そんな温かい関係性を繋いだ先に、きっと後悔のない素敵なマイホームが待っているはずです。
本メディアでは、今後も小酒さん監修のもと、失敗しない家づくりのための基礎知識を発信していきます。ぜひ、これからのマイホーム計画のヒントにしてみてください。